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もうひとつの家族

ミケ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 セルトママの憂鬱
  • 02 イナちゃんの発見
  • 03 モルガンさんの助言
  • 04 休憩挿話 〜ケスタロージャさんの相談〜
  • 05 のろのろと始まり
  • 06 どたどたと進み
  • 07 せかせかと向かい
  • 08 にこにこと終わる
  • 09 閉幕挿話〜すやすやと眠る〜
  • イナちゃんの発見

    写真展を開くのが夢!が口癖の彼女が、
    何故だか今日は授業をずっと上の空で聞いている。
    そんな少女の隣に座っているイナちゃんは、そんな彼女の様子が気になっていた。
    何かあったのかと聞いてもいいものか、けれどいつの元気な彼女のことだ。
    自分では相談にも乗れない悩み事かもしれない、でも聞くくらいなら‥‥‥

    「はぁ‥‥‥もう、セルトが変な事言うから‥‥‥」

    横顔をじっと見つめるイナちゃんの心の中での葛藤など露知らず、
    本人が知らぬうちに、周りに心配をかけている少女は、
    今朝バールを出る前に、セルトに言われたことについて考えていた。

    『兄貴に告白しないのか?』

    言われたときは突然の言葉に、当然のことながら焦ってしまったが、
    ミルズさんのことは確かに好きだ、コレは嘘ではない。
    けれど、セルトと同じように家族としての好きなのだと思う、というか、きっとそう。
    というのが、彼女の見解であり現在の気持ちだった。

    (それにそうよ!恋は突然に始まるもののはずだよね。

     ミルズさんとの出会いは‥‥‥特に変わったものじゃなかったもの。

     曲がり角でパンを咥えて走ってたらぶつかるとか、

     空から降ってきた私を、ミルズさんが受け止めてくれたとか、

     そんな劇的な出会いじゃなかったものね、うん。

     やっぱりセルトの思い違いよね!)

    この恋愛観のソースは、おそらく誰もが予想がつくであろう、
    少女マンガ及びロマンス小説だったりする。
    救いがたいほどに本の中の出来事を、丸々現実と重ね合わせてしまっているこの少女、
    疑うことを知らないピュアな子といおうか、ただのお馬鹿と言おうか、
    とても迷うところです。

    「あ、あの‥‥‥な、何か悩み事ですか?」

    「え?」

    と、彼女がある意味のんきに考え事にふけっていると、
    その間にも、悩み事があるのかどうか聞くことを迷い続けていたイナちゃんが、
    意を決して彼女に話しかけた。
    聞かれた本人はと言うと、さっきの今で悩みは解決してしまったので、
    イナちゃんが何故そんなことを聞いてくるのか、いまいち理解できていない様子。

    「悩みは‥‥‥特に無いけど、どうして?」

    「あ、無いならいいんです。何だかぼんやりしているみたいだったので‥‥‥」

    「そう?大丈夫よ、芸術系の授業以外は、ちょっと気合が入らないだけだから。」

    先生に怒られそうなことをさらっと口にするこの少女、
    けれどイナちゃんの心配は素直に嬉しいらしく、にっこり笑って大丈夫と言って見せた。





    「ダンテ、ロダンちょっと待ってよ〜!」

    「あはは、やっぱり君と一緒だとダンテもロダンも嬉しいんだよ。」

    「わ、笑わないでください!ミルズさん助け‥‥きゃあ!」

    「おっと‥‥さすがにこれ以上は無理かな。僕が手綱代わるよ。」

    「あ、わ、わ‥‥‥お、お願いします。」

    二匹の犬に引っ張られ、危うく歩道につんのめりそうになる少女を支えたミルズさん。
    さっきまでの焦り顔は何処へやら、頬から耳から真っ赤に染めて、少女は手綱を渡す。

    「あれは‥‥‥あ、もしかして‥‥‥」

    そこへ通りかかって、先程までの一部始終を目撃したイナちゃんは、
    彼女の様子を、今朝の授業中の様子と照らし合わせて、閃いた。
    きっと、授業中にボーっとしていたのは、あの男の人に関係があるに違いない、と。
    意外にも人間観察をしているイナちゃん、いつも芸術以外の授業でも一生懸命な彼女が、
    ボーっとするにはそれなりの理由があるはずと”気合が入らない”というあの言葉を、
    丸々信じていたわけではなかったのです。

    なるほど、なるほどと納得の言ったイナちゃんは、
    友人が、しっかり恋していることが嬉しくなって、いつもよりも軽い足取りで、
    暗くなる前にと、家路を急いだのでした。



    「この子達と一緒に走って、疲れたんじゃない?顔真っ赤だよ。」

    「え、えぇ、はい。つ、疲れまして‥‥あはは‥‥‥」

    夕焼けの公園、二人して芝生の上に座り込んだら、ミルズさんが笑った。
    いつも見ているはずのその笑顔に、今日は何だか照れてしまって、
    うまく言葉が出てこなかった。

    『告白しないのか?』

    告白、か。
    私がミルズさんに告白するとして、何を告白すればよいのかな。
    ”家族として大好きです”とか‥‥‥でも、コレはセルトにも言えることだし、
    わざわざ言わなくても、ミルズさんはそういうの分かってくれてる気がする。

    「ん?どうかした?」

    「あ、なんでも、ないです。」

    無意識のうちにじっと見つめてしまっていたのか、ミルズさんが私に問いかける。
    言わなくても‥‥‥いいよね、まだ。

    まったく、今日は一日セルトの言葉に振り回されちゃったよ!と、
    いつも自分が周りを振り回していることなど露知らず、
    セルトに何て文句を言おう、また”セルトママ”って呼ぶのも良いかも知れないとか、
    ずれていると言うよりも、斜め上に軌道を外したままの事を少女は考え始めたのだった。



    つづく!

    10/11/23 21:28 ミケ   

    ■作者メッセージ
    優しくて乙女キャラなイナちゃん好きです。
    本編でダンテとロダンの散歩中、大きな犬2匹も連れてるのに、
    主人公が引きずられなかったのが不思議で、書いてみた次第です。

    ここまで読んでくださり、有難うございます。
    次もお付き合いいただければ幸いです。

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