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もうひとつの家族

ミケ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 セルトママの憂鬱
  • 02 イナちゃんの発見
  • 03 モルガンさんの助言
  • 04 休憩挿話 〜ケスタロージャさんの相談〜
  • 05 のろのろと始まり
  • 06 どたどたと進み
  • 07 せかせかと向かい
  • 08 にこにこと終わる
  • 09 閉幕挿話〜すやすやと眠る〜
  • 休憩挿話 〜ケスタロージャさんの相談〜

    このところ、困っている事がある。
    そう言われて公園まで来てみると、確かに困ったオーラを全身に纏ったケスタロージャが、ベンチにちょこんと座っていた。
    どう驚かせてやろうかと忍び足で近づいたら、僕の後ろで散歩していた犬の鳴き声に、
    彼が振り返る。
    ‥‥‥失敗したか。

    「ミルズ‥‥‥」

    「やぁ、ケスタロージャ。言われたから来たけど、悩み事?」

    「‥‥‥そうなのですが。」

    片手を挙げて、親しい友人にそうする様に、僕は笑いかける。
    そんな僕の笑顔に、なぜか恨めしそうな視線を投げかけながら、
    ケスタロージャは視線を正面に戻す。
    僕は何も言わない彼の隣に座って、とりあえずは彼が話し始めるのを待つ事にした。

    「実は、最近知り合った女の子が、何か悩んでいるみたいで。」

    早速面白い話をしてくれると、僕は彼からもっと情報を聞き出そうとした。

    「どんな子?何の悩みなの?」

    「く、詳しくはちょっと‥‥その、恋の悩みのようで、私では力不足と思って‥‥‥」

    「‥‥‥うん、確かに。」

    自信無さ気にする彼に、僕はもっともだと告げる。
    僕の知っている限り、ケスタロージャに彼女がいた事は無かった。
    たとえ彼に言い寄ってくる女性がいたとして、彼の方から敬遠して‥‥‥
    というよりも、離れていってしまうだろう。
    そんなケスタロージャに女の子の知り合いなんて、これ以上面白い話題なんて無いな。
    ‥‥‥最近は、下宿している彼女は何だか上の空で、話す時間が減っちゃったし。
    弄っていて面白いのは、彼女の次にケスタロージャくらいだからね。

    「それで、僕に相談したと。」

    「は、はい。」

    「ん〜力になってあげたいんだけど、僕だって恋愛経験豊富なわけじゃないよ?」

    「え?」

    「あれ、そんな風に見える?」

    「い、いえ、そういうわけじゃ‥‥‥」

    僕に恋愛経験が少ない事が意外だったのか、ケスタロージャは何とも驚いた顔をする。
    前の仕事も、今の生活からしても、恋愛経験が多くなる要素は無いと思うんだけどな。

    「ま、アドバイスはするけど。その子の特長とか、相手の特長とか分からない?」

    とりあえずは、相談してくれた彼に対して最大限の苛め‥‥じゃ無くて、
    解決方法を探してあげるのが、今の僕の役目かな。
    その子がどういう子なのか知らない事には、相談も何も無いし。

    「え、えっと、特徴は‥‥女性らしくて、元気で活発で、笑顔が似合う‥‥‥」

    「あはは、ケスタロージャはそういう子が好み?」

    「ちが‥‥!私が話しているのは‥‥!」

    「分かってるって、ごめん。それで、どういう風に悩んでるのか聞いてる?」

    すぐに真っ赤になって反論するケスタロージャは、どこか‥‥‥
    そうだ、いつもその姿を見ている彼女に似ている気がする。
    ‥‥‥そう、セルトと一緒にいるとすぐに真っ赤になって、
    分かりやすいくらいに反応を示す、あの少女と。

    「‥‥‥なんでも、相手に対して抱いている感情が、恋なのかどうか分からない、と。
    周りの人にも色々言われているみたいで、恋って何なのかと聞かれまして‥‥‥」

    「なるほど‥‥‥確かにそれは難しい質問だねぇ。」

    何とも難易度の高い質問を、その手のことに経験が薄そうな相手にぶつけるものだな。
    きっと相手をこんなにも悩ませている事なんて、これっぽっちも‥‥‥と、
    そこまで考えたところで、僕の思考にはひとりに人物が浮かんだ。

    「‥‥‥‥‥。」

    「ミルズ?」

    あぁ、そうだ。
    ケスタロージャの話す女の子は、あの子に重なるところがあるんだ。
    天真爛漫で、いつも笑顔を振りまいていて、わかり易過ぎるくらいに純情で、
    相手の言動をすぐに信じるくせに、自分が他人の気持ちを振り回していることなんて、
    全くもって気付きもしない。

    「‥‥そうだね、答えにはならないけど、とりあえずその子にこう伝えてくれる?」

    「何か、良いアドバイスが‥‥?」

    だから、もういっそのこと、その子だってケスタロージャの言動に、
    振り回されてしまえばいいんだと思った。

    「とりあえず押し倒せ。」

    「‥‥‥な、なななな?!」

    「じゃ、よろしく伝えておいてくれ。」

    予想通りと言ってはなんだが、一瞬意味を理解しかねていた様子だったが、
    意味を理解したとたんに、ケスタロージャは真っ赤になってあたふたとする。
    そしてそんな彼を残して片手を上げると、僕はベンチを立った。
    彼を苛めるのも面白いけど、やっぱり違うと分かったから。







    「‥‥‥‥‥。」

    カラコロと音も静かに開いたバールのドアから入ってきたのは、
    僕が待ちわびていた少女、だったのだけれども。

    「おかえり‥‥って、どうかしたのか?」

    セルトがそう聞いたのも無理はない。
    学校から帰ってきた彼女の顔は、これ以上ないくらいに真っ赤に染まっていて、
    俯いたまま、こちらを見ようともしない。

    「おい‥‥「うわああぁ!!無理ムリむり!!」

    かけられた声に、そっとこちらに視線を向けた少女は何事かと思うくらいに、
    声をあげて、先ほどまでよりもさらに顔を赤くして取り乱しだした。
    最近ずっと何かに悩んでいるようだとは思っていたけれど、
    ここまでひどい悩みなのだろうか。
    心配になった僕は、カウンターから立ち上がって少女のところまで行く。

    「どうかし「み、ミルズさん!!わ、私そんなんじゃないですから!!」

    すると僕の姿を認めた彼女は、後ずさりする勢いでバッと体を起してそう叫ぶ。
    ごめん、言ってる意味がわからない。

    「なんのこと?」

    「あわわ‥‥すみません、何でもありません!セルト、今日は晩御飯いらないから!」

    叫んだままの勢いで、いつものように、彼女はバタバタと階段を駆け上がると、
    そのまま部屋にこもってしまった。
    僕、何かしたっけ?避けられているような気がするのは、気のせいなのかな。

    「‥‥‥兄貴、あいつの様子見て何にも気づかないのか?」

    「ん〜さぁ?僕としてはセルトの方が気づいたらいいんじゃない?」

    「は?」

    「さて、昨日は仕事で徹夜したから、僕はもう寝るよ。ごちそうさま。」

    「あ、あぁ、おやすみ。」

    「おやすみ。」

    本当に、気付いてないのか、そんな振りをしているのか。
    セルトはそこまで鈍い奴じゃないから、もしかしたら後者かもしれない。
    彼女がセルトと居る所を僕に見られた時や、セルトが突然声をかけたとき、
    決まって彼女はいつも真っ赤になって、その場を離れようとする。
    僕のことなんて気にしないで、セルトも彼女に早く告白すればいいのに。

    「‥‥‥ほんと、何でこんなこと考えてるんだか。」

    部屋のドアを閉めると、静かな部屋の中に微かに漏れ聞こえる少女の声。

    「うわあぁ‥‥‥もう、何やってるの私ってば、いくらあんなこと言われたからって‥‥‥」

    そんな騒がしいはずの声を聞いて、なぜだか笑顔がこぼれてしまう。
    彼女がセルトを好きなのだと思い、彼女の反応を見るたびに寂しくなっていくこの心。

    「なんでなんだろうね‥‥‥」

    素直に彼女の恋を応援できない自分に嫌気がさしながらも、
    眠気には勝てずに僕はベットに倒れこんで目を閉じる。

    夢に落ちる直前まで耳に届いていた彼女の声は、
    今の僕にとっては、何故かとても優しい子守歌に聞こえた。

    つづく!

    10/12/02 11:32 ミケ   

    ■作者メッセージ
    ミルズさんと主人公の話のはずなのに、ほぼ絡みが無いという残念感。
    ミルズさんファンの方、すみませんでした。
    とりあえず、このお話はミルズさんの勘違い+ちょっと複雑な心境が書けたらなと思って書きました。

    ここまで読んでくださりありがとうございます。
    この次もお付き合いいただければ幸いです。
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