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もうひとつの家族

ミケ

INDEX

  • あらすじ
  • 01 セルトママの憂鬱
  • 02 イナちゃんの発見
  • 03 モルガンさんの助言
  • 04 休憩挿話 〜ケスタロージャさんの相談〜
  • 05 のろのろと始まり
  • 06 どたどたと進み
  • 07 せかせかと向かい
  • 08 にこにこと終わる
  • 09 閉幕挿話〜すやすやと眠る〜
  • モルガンさんの助言

    警察官という仕事柄、人を観察してしまうのは仕方ないことなのかもしれない。
    今日、モルガンさんは久しぶりにセルトがバリスタを務めるバールへと、足を運んでいた。
    見れば、この国に留学して下宿をしているとセルトから聞いていた少女が、
    どうやら夕食の真っ最中だった。
    その姿を見て、初めは来ないほうが良かったかとも思ったが、
    その少女が警官姿のモルガンさんにあまりにも好奇の目を向けてくるものだから、
    踵を返しかけた足を、諦めてカウンターへと向けるモルガンさん。

    「あ、先輩‥‥‥いらっしゃいませ。」

    「?セルトの知り合い?」

    初対面であり、警官の格好をしているモルガンさんにも、
    好奇の目は向けるものの物おじした様子はなく、もぐもぐと温野菜を頬張る少女。
    モルガンさんの姿を認めたセルトは、一瞬気まずいような顔をしたが、少女の問いかけに律儀にも答えてあげた。

    「あぁ、昔世話になった人だ。」

    「久しぶりだな、セルト。‥‥‥何か軽くつまめるものをくれ。」

    「かしこまりました。」

    モルガンさんが短く注文を言うと、セルトは返事もそこそこに厨房へと消える。
    今日は人が少ないという事も相まって、カウンターには少女とモルガンさんと二人という状況になった。

    「えぇっと‥‥‥はじめまして、ですよね?」

    「そうですね、貴方のことはセルトから聞いていました。私は、モルガンといいます。お見知りおきを。」

    「モルガンさんですか。‥‥‥セルトからって、変なこと聞いてないですよね?」

    カウンターに座るや否や、少女は好奇心を隠すことなくモルガンさんにぶつけてくる。
    しかしそこは大人なモルガンさん、落ち着いた対応でさらりと微笑みました。

    「はい、元気のいい女の子が下宿していると聞いていますよ。」

    「よかった‥‥‥でも、警察官のモルガンさんとセルトなんて、全然繋がりが分からないんですけど?」

    言いながら、皿の上の野菜を食べ終えた少女は、厚切りのハムへとフォークを伸ばす。

    「まぁ、セルトにもいろいろあったという事ですよ。知りたいのなら、直接セルトに聞いてみたらどうですか?」

    「う〜ん、でもセルトが話したくないなら無理には聞きたくないし‥‥‥」

    「あれ、モルガンさん来てたんですか?」

    「ん、あぁミルズも居たんだったな。」

    「きゃああ!!」

    ひょいっと、何の前触れもなくミルズさんが階段から下りてきてバールへと顔を出す。
    もともと知り合いだったモルガンさんとミルズさんは親しげにあいさつを交わすのだが、
    同じくその場に居合わせた少女は、小さくない悲鳴を上げて椅子ごとひっくり返ってしまった。

    「‥‥‥だ、大丈夫?!」

    一瞬あっけにとられてしまっていた二人だったが、いたたとお尻をさする少女に、
    慌ててミルズさんが駆け寄る。

    「だ、だだだいじょぶです!!」

    「そう?気を付けたほうがいいよ。」

    「は、はい‥‥‥!」

    まったくとか言いながらも少女の手を引きたちあがらせるミルズさんと、
    真っ赤になって汗を飛ばす少女、モルガンさんは一発で状況を理解してしまった。
    そこへ料理を持ってセルトが厨房から戻ってきた。

    「なんか、すごい音がしたけど‥‥‥何やってんだ?」

    「せ、セルト!わ、私、ごちそうさま!」

    何をやっているのかというセルトの問いには答えず、ごちそうさまだけ言うと、
    まだハムの乗った皿を残して、バタバタと二階へと上がっていってしまった。
    ポカンとした表情でバールに残された、セルトとモルガンさんとミルズさん。
    しかし、次のミルズさんの一言にモルガンさんとセルトは、耳を疑わざるを得なかった。

    「ふふ、可愛いよね。初々しくて。」





    「‥‥‥セルト、あれは気が付いていないと言っていいのか?」

    「いつもの兄貴の様子を考えたら、おかしいんだけど。あれは完全に気付いてない。」

    夕御飯を食べ終わったミルズさんが二階へと上がってしまってから、セルトとモルガンさんはそう話していた。
    人を観察するのが得意でもそうでなくても、アレは、あの反応は気付いて当然ではないだろうか。
    ここしばらく、先程の様な光景を見せられているセルトのことを思うと、
    モルガンさんは、この店の売り上げに貢献しないわけにはいかなくなった。

    「セルト、心中察する。」

    「‥‥‥だったら何とかしてください。」

    「それは私にも無理だ。」

    「‥‥‥ですよね。」

    深い深いため息をついたセルトに、
    飲食代よりも多目の硬貨をカウンターに置いて立ち上がるモルガンさん。
    その行動に、訝しげにセルトがモルガンさんを見る。

    「セルト、この状況を打破するための情報を一つ教えてやろう。」

    「何ですか?」

    「ミルズの様子、アレは多分気付いていないんじゃなくて、一つ決定的な勘違いをしているだけだ。」

    「‥‥‥は?」

    セルトは意味が分からないとばかりに、モルガンさんの言葉を聞き返そうとしたのだが、
    既に出口へ向かっていたモルガンさんに、聞く事は出来なかった。

    「‥‥‥ありがとうございました、先輩。」

    「いや、上手く収まるといいんだが‥‥‥」

    「でないと俺が死にます。」

    頭痛薬及び胸焼け防止の薬を飲まなくてはいけない日が来ない事を、
    セルトはひたすら祈るばかりだった。



    つづく!

    10/11/26 12:29 ミケ   

    ■作者メッセージ
    セルトがただの可哀想な人になってますね、すみません‥‥!
    モルガンさんは警察官の上かっこいいので、一度は登場させたいと思っていました。
    なので、一話丸まる登場させてあげられたのは、嬉しいです。

    ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
    この次も、お付き合いいただければ幸いです。
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