とある獣人の憂鬱 R 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

助かった?

「先生! ご無事ですか!」

真っ先に飛び込んできたのは、イングリフ様ではなく、我が国の第三王子、アルト様だった。
おとなしくて、いつも無表情の王子が、顔色を変えて入ってきた。

助かった……。
アルト様を見て、まずそう思った。

マリアンヌ殿が、元気なうちに助けが来た。
肩の力がストンと抜けた。


けれど、アルト様は、俺たちを見て、硬直した。
安堵の表情ではない。

何か、驚愕した顔だ。

「教授!」
「マリアンヌ!」
「マリアンヌ様!」
「マリアンヌ殿!」

口ぐちに彼女を呼び、入ってくる宮廷の面々……。
ソロレスにイーヴにカリエン、庭師のシュイエ、エグザまでいる……。

彼らもアルト様と同じように、固まった。


彼らの方を向いた、涙の跡がはっきりと残る、下着姿のマリアンヌ殿。

俺の腕に巻きつく、破けたブラウス……。

……俺、襲った?
これ、襲ってる???

瞬時に状況を理解し、血の気が引いた。


けれど、当のマリアンヌ殿は、理解できていないようで、

「……よかった」

と、ほっとしたように言い、俺の肩に倒れこんだ。


極度に緊張していたのだろう。
無理もない。

こんなところに閉じ込められていたんだ。
気丈に振舞ってはいたが、本当は心細かったのかもしれない。

気丈というか、能天気とでも言うのだろうか。
明るく振舞っていたと表現すべきかもしれない。

とにかく尋常ならざるタフさを誇っていたマリアンヌ殿も、安心したのだろう。
彼女の表情は穏やかだった。


だが、ここで気を失うのか?!

マリアンヌ殿の後ろから、鬼の形相の面々が俺を見ていた。



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