とある獣人の憂鬱 R 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

そんなの、絶対にダメだぁああああああ!!!

俺は鎖を背負うように、腕に巻いた。
じゃらじゃらという音が周囲に響く。

「ヴォルク?」
きょとんとした顔で、マリアンヌ殿が俺を見ていた。

マリアンヌ殿から離れ、壁を背にして右腕に鎖を巻き、背負うように鎖を引く。

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!」

力の限り、引っ張る。
手首と鎖を握った手がぐっと絞まる。

「ちょっと! ヴォルク! 何してるの?!」

マリアンヌ殿が駆け寄ってきて、俺の胸に手を当てる。
細くて白い、綺麗な手。

それに力をもらえたような気がして、力を込める。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「やだ! ヴォルク! 血が出てるよ!」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

痛みでよくわからない。
だが、マリアンヌ殿が、俺の手に触れている。

「マリアンヌ殿」

鎖を引きながら、彼女を見た。

「何?」

泣きそうな顔で、俺を見ている。

「危ないから離れていろ」

「やだ!」

マリアンヌ殿が、しがみついてくる。
彼女だけは、何があっても守る。

たとえこの身がどうなっても。
彼女だけは……。

今なら、彼女はまだ元気だ。
でも、このまま助けが来なければ……。

イングリフ様が来るのを待ってなんていられない。

彼女は人間なんだ。
俺が、彼女を守る。

俺ならそれができる。
獣人の俺なら……。

いままで、獣人でよかったなどと思ったことはなかった。
だが、人間でない、獣人の俺なら、今のこの状態から彼女を助けだせる。

俺しかいないんだ!
持てる力のすべてを込める。

ゴリっという音が、壁から聞こえてきた。
あと少しだ。

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」

手の感覚がない。
何か液体が頬を伝う。

「ふぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」

最後の力を振り絞る。

ゴンっ!

壁と鎖が付いていた部分が抜けて、床に落ちた。
鎖の先に、ゴロンと石の壁が付いている。

「……ウソ」

それを見ていたマリアンヌ殿がつぶやくように言った。


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