俺は鎖を背負うように、腕に巻いた。 じゃらじゃらという音が周囲に響く。
「ヴォルク?」 きょとんとした顔で、マリアンヌ殿が俺を見ていた。
マリアンヌ殿から離れ、壁を背にして右腕に鎖を巻き、背負うように鎖を引く。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!」
力の限り、引っ張る。 手首と鎖を握った手がぐっと絞まる。
「ちょっと! ヴォルク! 何してるの?!」
マリアンヌ殿が駆け寄ってきて、俺の胸に手を当てる。 細くて白い、綺麗な手。
それに力をもらえたような気がして、力を込める。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「やだ! ヴォルク! 血が出てるよ!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
痛みでよくわからない。 だが、マリアンヌ殿が、俺の手に触れている。
「マリアンヌ殿」
鎖を引きながら、彼女を見た。
「何?」
泣きそうな顔で、俺を見ている。
「危ないから離れていろ」
「やだ!」
マリアンヌ殿が、しがみついてくる。 彼女だけは、何があっても守る。
たとえこの身がどうなっても。 彼女だけは……。
今なら、彼女はまだ元気だ。 でも、このまま助けが来なければ……。
イングリフ様が来るのを待ってなんていられない。
彼女は人間なんだ。 俺が、彼女を守る。
俺ならそれができる。 獣人の俺なら……。
いままで、獣人でよかったなどと思ったことはなかった。 だが、人間でない、獣人の俺なら、今のこの状態から彼女を助けだせる。
俺しかいないんだ! 持てる力のすべてを込める。
ゴリっという音が、壁から聞こえてきた。 あと少しだ。
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
手の感覚がない。 何か液体が頬を伝う。
「ふぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」
最後の力を振り絞る。
ゴンっ!
壁と鎖が付いていた部分が抜けて、床に落ちた。 鎖の先に、ゴロンと石の壁が付いている。
「……ウソ」
それを見ていたマリアンヌ殿がつぶやくように言った。
|