とある獣人の憂鬱 R 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

あとは扉を開けるだけ

マリアンヌ殿は、鎖の先の壁の破片を手にとって、首を傾げていた。
俺はそのままそこに居てくれればいいと思った。

彼女に当たらないように、もう片方の鎖の壁も壊す。

「はー」

肩で呼吸する。

体力限界だ……。
思っていた十倍くらい、大変だった。

頬に付いていたのは、血だった。
鎖とこすれて傷ができていた。

手がジンジンしている。
骨がおかしくなっているかもしれない。

それでも、さっきよりは全然動ける。
重りのように壁の破片がついた鎖を引きずり、扉に向かう。

「ヴォルク、どこに行くの?」

「マリアンヌ殿は、そこに居てくれ」

そう言って、扉の前まで来る。
次はこれを壊せばいい。

燦然と輝く、金属の扉。
鍵はかかっていないとしても、かなり厄介そうだ。

だが、これを壊せば、出て行くことができる。
マリアンヌ殿を連れて、安全な場所に行ける。

体当たりをしようとしていると、マリアンヌ殿が背中から抱きついてくる。

「ヴォルク、もうやめて。私は平気だよ。血が出てる、これ以上はダメ。壊せるはずがないの。これ以上やったら、ヴォルクでもダメなの!」

「扉が開けば、宮廷に戻れる。マリアンヌ殿は、ここにいてはいけない」

マリアンヌ殿が俺の前に出てきて、涙をいっぱいためた瞳で俺を見る。

「ダメ! ヴォルク、無理しないで」

そう言うと、マリアンヌ殿は着ていた白いブラウスの端を掴み、勢いよく破く。

「なっ! 何をしている!」

マリアンヌ殿の下着が丸見えになった……。

「手当て……」

「はぁ?」

「……時代劇で、怪我人を見た人が、着物の裾を破いて手当てをするっていうのがあって、一回やってみたいな〜って」

泣きながら、彼女は言った。

「時代劇??」

何だそれは……。

表情と言っていることがおかしい。
それは、泣きながら言うことなのか?

「思ってたより裂けた」

目から涙を流し、鼻をぐずぐず言わせながらブラウスを脱ぐと、それを細く破き、俺の手と腕に巻きつける。

「マリアンヌ殿、とりあえず、服をなんとかしてくれ」

「壊れるはずがないの。それなのに、こんな無理して……」

彼女の瞳から、綺麗な涙がポロポロとこぼれた。

「マリアンヌ殿……」

「やだよぉ。ヴォルク……。こんなに傷ついて……」

彼女は静かに泣いた。

俺は、どうしたらよいのかわからず、固まっていた。




すると、何やら扉がガタガタと音を立てて、開いた。

ここでイングリフ様なのか?



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