連載小説
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『うーん……フィーナ様に嫌われる一方だな……私』




はぁ〜……っとため息をつくと、ピアノの音が聞こえてきた






これはきっとイーヴが弾いているんだろうな……






そう思うと足が自然に音の方に向かった























「ふぅ……」




イーヴは弾き終わると、小さく息を漏らした




すると、扉が開く音と共に声が聞こえた





『今の曲すごく良かったよ!』



「……雪凪?」




イーヴは驚いた表情でこっちを見た





『どうしたの?そんなに驚いて』


「いや…今丁度、雪凪に会いたいと思っていたところだった」



すると、優しくイーヴは微笑んだ

こんな美形にこんなこと言われたら、女の子だったら卒倒するだろうなと思いつつ、苦笑いを浮かべた



『イ、イーヴったら……よくそんな言葉がでてくるね』




生憎、これがイーヴの性分であり、彼にとっての普通らしくてもう慣れてしまった





「何がだ?」





そして何より、天然なのが困りもの。まぁそれがいいとこであるとも言えるけれど





『ううん。なんでもない…』



イーヴ不思議なそうな顔で私の顔を仰ぐ




『そ、それよりイーヴ。さっきの曲はなんていうの?』


「曲名はまだない」



イーヴはピアノに視線を落とした。その視線はどこか遠くを見ているようだった



「俺がつくった曲だからな」



指が鍵盤に触れた




『イーヴがつくった曲だったんだね。だからあんなに優しい恋の曲だったんだ』


今でも頭の中に残るあのメロディー。
優しくて…時々悲しくなったりと曲調が変化していく中、恋をする楽しさが含まれていた





「すごい洞察力だな……」


『そんなことないよ。だってイーヴが音楽のこと教えてくれてるおかげだもの』


「それは雪凪が頑張っているからだろう。よく勉強している証拠だ」



イーヴは嬉しそうに微笑んだ。音楽をこんな風に理解してくれることに嬉しさを感じているのかもしれない





『ねぇイーヴ。もう一回あの曲聞かせて?』


「俺がつくった曲をか?」


『うん。でも迷惑だったらいいよ』


「迷惑なことはない。音楽は聴かせるものだからな」



イーヴは両手を鍵盤にのせた。



『ありがとうイーヴ!』


「その…少し条件がある」


『条件?』




イーヴは座っていた椅子を横にずれた





「俺の横で聞いていてほしい」


『へっ?』



自分でもびっくりするくらい間抜けな声が出た



『隣って…この椅子の?』


「ああ…俺の曲が間近で聞ける特等席だ」


『でも…邪魔にならない?私なら別に立っていても平気だけど』


「邪魔になんてならない。こっちの方が音楽の勉強にもなるだろう」



するといきなりイーヴは私の腕を引っ張った。





『きゃっ』



強引な……と文句を言おうと顔を上げれば、唇が触れあいそうなその距離に驚き口を閉じた


そして満足そうに笑う




「じゃあ弾くぞ」



指が音を奏ではじめる。……けど集中なんて出来るものじゃない。
この距離の近さに、耳元で聞こえるイーヴの息遣いに……何もかもが心臓を跳ねさせる






(意識しない……意識しない。これも無意識でイーヴはやってるんだから)






私は努めて曲に集中しようと手を強く握った






そのせいか



いつもより楽しげに弾いているイーヴの姿に、私は気がつかなかった







「(―――あぁ…安心する……この距離感)」






































その窓の外には絵を描いていたイレールがいた




絵の中には二人の男女が描かれている





「兄さんも意外とやるねぇ……教授のことを想いながらつくった曲を傍で聴かせるなんて」





絵の裏に日付と自分の名前を書いた





「そうだなぁ……タイトルは……」







イレールは絵の中の人物に目を向けた









「女神と吟遊詩人=v






12/05/26 18:32更新 / nayo
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