君の願いが叶うころ
私の写真に納まったいつかの仏頂面が、はらりと本棚から落ちた。手に取って眺めると、きらきらした夢を追いかけていた頃の匂いがふわりと漂う。ああ、あの頃、私は何事にも精一杯で、逃げることなんて知らなくて、ただただ明日に向かって全力疾走していたのだ。強かった。一生懸命だった。きっと何だって出来た。今はもう、無理だけれど。思わず湿っぽいため息を吐いてしまったことに気付き、それについてまたため息を吐いた。駄目だ駄目だ、こんなことじゃあ。ブレラでのことはもう思い出にしたじゃないか。今の私と以前の私を比べたって何の意味もないのに。その写真を本棚の奥の方に投げ捨てて、私は夕飯の支度に取り掛かった。写真を投げたことを少し後悔したけれど、仕方あるまい。だって私はただの会社員だ。たまに趣味でカメラを構えるくらいで、以前のように毎日写真を撮ることもなくなった。趣味の域を出たりはしない。無理だったのだ。たかが一回個展を開けたくらいで、写真で食べていくなんてことは。
ざくり。野菜を切る音に重なって家のチャイムが鳴った。
※主人公の名前はライハ、学校はブレラで固定
ざくり。野菜を切る音に重なって家のチャイムが鳴った。
※主人公の名前はライハ、学校はブレラで固定