」
「獣人はヴォルクのおかげだよ」
「え?」
「ずっとヴォルクを観察してたの」
「……そうか」
こそこそと見られていたマリアンヌ殿の奇怪な視線の理由がわかった。
でも、この洞察力は感服させられる。
「まあ、マリアンヌ殿は実技もしているからな。その分、他の学者とは違うんだろう」
そう言いながら、最後のページを見て、思考が止まった。
「……マリアンヌ殿」
「はい?」
「この論文は、誰かに見せたかのか?」
「イングリフさんに見せたけど」
目をぱちくりさせてマリアンヌ殿は言った。
「困ったことがあったら、なんでも相談してくださいって言ってくださって、じゃあって論文を見せたら、このことを聞くのは、ヴォルクが適任だって教えてくれたのよ」
やっぱりイングリフ様のしわざか……。
「あ、別に、ヴォルクを信じてなかったとかっていうのじゃないからね。なんかちょうど通りかかったイングリフさんが論文を見てくださって、面白いから少し貸してくれって言って、良いですよって貸して、さっき返してもらったの。それで、この論文はこのまますぐにヴォルクに読んでもらって、ヴォルクに教えてもらうのが一番だって言ってたの。実地でやってもらったら、惚れ込むこと確実だって言われて、けっこう楽しみにしてたんだけど……」
イングリフ様の本性を知らないマリアンヌ殿は、無垢な瞳でそう言った。
「これ、少し預かっていいか?」
「論文を?いいけど」
マリアンヌ殿は不思議そうな顔をした。
「実地訓練は見せてくれないの?」
子供のような瞳でマリアンヌ殿は言った。
……訓練じゃない。
「それは……、その、今度」
今度なんて、あるのか?
そう言うと、マリアンヌ殿はぱーっと顔を輝かせて、
「絶対だからね」
と言った。
マリアンヌ殿が去った後、俺は論文の最後のページ、イングリフ様の字で書かれた『獣人の作成方法』を握りしめてポケットにしまった。
イングリフ様に問いたださねば……。
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