洞とか」
それを身振りつきで表現していた。
こんな調子のマリアンヌ殿を置いて行ったら、ホントに迷子になって宮廷に帰って来れなくなるかもしれない。
町のような危険はないと思うが、一緒に居た方がいいだろう。
これも、親衛隊員として客人を護衛しなければならないからだ。
決してマリアンヌ殿と一緒に居たいからではない。
「ねぇ、ヴォルクなら、何かすんごく面白そうなもの、知ってるんじゃない?」
キラキラとした笑顔でマリアンヌ殿が言った。
それにしてもマリアンヌ殿は、変な物ばかりに興味をそそられるようだ。
それならこの先にある巨大な苔むした石とか気に入るだろうと思った。
「この先にマリアンヌ殿が気に入りそうな石があるぞ」
そう言って指差すと、マリアンヌ殿の顔がパーっと輝いた。
返事を聞くまでもなく、俺は歩きだした。
「そういえば、今日は町に行ったそうだな。エグザから聞いた」
後ろからマリアンヌ殿の足音が聞こえるのを確認しながら言った。
「ちゃんとカリエンさんと行ったよ」
ひとりで行かなかったぞ、どうだ、偉いかという感じだった。
「楽しかったか?」
「うん!」
元気よくマリアンヌ殿は言った。
「それはよかった」
やっぱり楽しかったんだ。
きっと、カリエン殿にちゃんとエスコートしてもらったんだろうな……。
「でも、ホントはヴォルクと行きたかったんだけどね」
え?
「ここのところずっとヴォルクと一緒だったから、あんまりつきまとったら迷惑かなって思ったの」
心臓がドキっとした。
人間の姿でなくて、良かったと思った。
「第三王子の個人教授の護衛は、親衛隊員の役目でもある。気にしなくていい」
「んっ」
奇怪な声をあげ、マリアンヌ殿ははちきれそうな笑顔でうなずいた。
肯定の意味なのか?
「じゃあ、次の休日は、ヴォルクにお願いするね」
「ああ、構わない」
「約束」
そう言って、マリアンヌ殿は何を考えたのか俺のシッポを握った。
「ふぉ!」
思わずそんな声が出て、片足をついてしまった。
「それはやめろと言っただろう……」
「だって、その手だと指きりできないなって思って」
「そんなのしなくても約束は守る」
そう言って、膝についた土をはらった。
「それってなんか、味気ないじゃん」
そんなの知るか。
それからしばらく行くと、石が見えてきた。
「あれだ」
そう言って巨大な石を示すと、マリアンヌ殿は苔むした石にあっという間に駆け寄った。
「うゎ〜。すっご〜い。苔コケがかわいいっ」
苔がかわいい?
緑色で、踏むと滑るのに。
それになんで苔を二度言う必要がある。
「あれ〜」
マリアンヌ殿は石を見て首をかしげた。
「どうした?」
「この石像、私の国にもあるよ〜」
「石像?」
とてもじゃないけど、俺には石の像にはみえない。
マリアンヌ殿は、慎重な足取りで石に近づいて観察していた。
「専門じゃないからよくわかんないけど、超古代の遺跡?ほら、ここに文字がある。この字、私の国にもあったよ」
え?
マリアンヌ殿の示すところを見ると、確かに字というか落書きに見えなくもないへこみがあった。
でも、俺にはマリアンヌ殿の言うことが、本気なのか冗談なのか、ただの勘違いなのか、よくわからなかった。
やっぱりマリアンヌ殿は理解不能だ。
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