下宿兼バールでバリスタとして働いているセルトには、
最近気になること、もとい心配事があった。
「おはよーセルトママ!今日も良い天気だね!」
「誰がママだ。‥‥‥朝ごはん出来てるぞ。」
「ありがと!わぁ、今日も美味しそう!!いただきまーす!」
「あ、兄貴‥‥‥おはよう。」
「え、ミルズさん?!お、おはようございます。」
「おはよう、二人とも。」
若干眠たそうに目を瞬かせながらも、階段を下りてきたミルズさんは、
にっこり笑顔で、先に起きていた二人に挨拶をする。
それを見た目の前の少女は、見る見るうちに頬を染めて、
嬉しそうに表情を緩めながら、自身の朝食に視線を落とした。
そう、セルトの心配事というのは、下宿人であるこの少女のことなのだ。
まだ学生である彼女は、もちろんの事ながらセルトよりも年下なわけで、
見ていて危なっかしいところもあるが、
明るく天真爛漫で、一言で言えばとても”良い子”なのである。
そんな彼女が、最近セルトの兄であるミルズと言葉を交わすたびにこの反応。
気付きたくもなかったが、こうまであからさまな反応をされては、
止めろと言われても、気付かないほうが無理だ。
どうやら少女は、ミルズのことが好きなようなのだ。
こう見えて何かと世話焼きのセルトは、気付いてしまったからには放って置けない。
とっても損な‥‥‥優しい性格なのです。
低血圧なのかどうなのか、朝食は摂らない事が多いミルズさんは、
セルトがいつものように差し出した極上のコーヒーを一杯だけ飲むと、
朝刊を手に、また二階へと上がっていった。
それを見たこの少女、なんともホッとしたような、残念そうな、
見ているこっちがもどかしい表情をするときた。
「お前、兄貴に告白しないのか?」
「え、ええぇ?な、何で私が?」
背中が痒くなりそうなセルトは、とりあえずストレートに聞いてみる事にしたわけだが。
案の定、聞かれた少女は、驚き半分焦り半分の非常に分かり易い反応をしてくれる。
「だってお前、兄貴のこと好きだろ。」
「??!す、好きって‥‥‥え、えっと?」
「違うのか?」
「う、うーん‥‥ミルズさんの事見ると、ドキドキしたり焦ったりするだけだよ?」
‥‥‥この子は”鈍感さ”というものを病院か何処かで、
大幅に削り落として貰ってきた方が良いかも知れない、本当に。
鈍いくせに何て厄介な恋をしているんだと、既に頭痛を覚えていたセルトに、
『だからセルトは勘違いしてるよ。』という、少女の追い討ちの言葉。
「あ、そろそろ学校行かなきゃ!行ってきます!」
「あぁ、遅くなるなよ。」
「はーい!」
今日も元気にバールのドアを開けっ放しにして駆けていく背中に、溜息一つ。
こうして、世話焼きなお母さん体質が故に、厄介事に巻き込まれたセルトは、
こういうことには鈍感な兄に代わって、真剣に頭を抱える羽目になったのでした。
つづく!
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