「お前のフォローに回ってやったんだぞ。ありがたく思え」
「申し訳ありません!」
これでもかと頭を下げた。
俺がマリアンヌ殿にあんな顔をさせてしまったというのに、イングリフ様は見事にいつもの笑顔というか、それ以上の笑顔にしてしまった。
多少、引っかかるところはあるが……。
「まったくだ。あれくらいのピンチ、いつでも切り抜けられるようにならなければ、親衛隊員としての資質が問われるぞ」
「はい!」
ひれ伏して土下座をしたい気分だった。
「それと、私がお前に何をしろと言ったか覚えているか?」
それを聞いて、ギクッとした。
「はい……」
「これは命令違反に当たると思うのだが」
「俺には……、できませんでした……」
「どうして?」
「マリアンヌ殿を傷つけることはできないと思いました。でも、それなら別の方法を考えなければいけないと思いました。元をただせばマリアンヌ殿が論文を発表しなければ獣人の情報が外部にもれることはありません。それならマリアンヌ殿に発表をやめてもらおうと思ったのです」
「そして、失敗したということだね。私が心配してついてこなかったら、どうなっていたと思うんだ?」
心配という言葉が多少引っかかった。
「でも、イングリフ様」
「なんだ?」
「俺がそんなことしなくても、はじめからイングリフ様がマリアンヌ殿に話をつければ済んだのではありませんか?」
イングリフ様は深いため息をついた。
「はじめに言っただろう、一石三丁の任務だと」
「あ、はい……」
「私の口添えでできたのは機密の保持と頭脳の確保だけだ」
それでもう十分な成果だと思うが……。
「未来の優秀な親衛隊員の確保ができてないだろうが」
そう言うイングリフ様が少し怖かった。
「そこまで欲張らなくても……」
「ダメだ。今日のところは大目に見るが、この任務は引き続き行うように」
「え……」
「返事は?」
「了解です!」
そうは言ったけど、マジで?
こんな任務、アリなのか?
「でも、論文をこのまま書かせてしまってもよいのでしょうか?」
「なぜだ?」
「いくら親衛隊が管理するとしても、それで完全に秘密が守れるとは思えません」
「あれくらいで我が親衛隊が窮地に陥ると思うか?」
え?
「ですが、あの論文はとてもよくできていました」
「もちろんそれは認めるが、あれが世に出て一番困るのはお前だ」
俺?
「獣人と言ってもいろいろなタイプがあるからな。ヴァンパイアのように通り一辺倒な方法で倒せるわけではない」
……そう言われてみれば、そうかも。
「それでも油断は禁物だ。だからマリアンヌ殿にはああ言っておいた」
……なんかここまでくると、もうついていけない感じがした。
「それに、マリアンヌ殿は天才だ。われわれには想像もつかない何かを見つけてしまうかもしれない。だが、それを味方につけてしまえばこれほど心強いものはない」
心強いというより、心配の方が増えそうな気がするんだが……。
「お前もじっくりとマリアンヌ殿に調べてもらって、コントロールの仕方を見つけてもらえ。マリアンヌ殿なら、不可能と思えることも可能にしてしまうかもしれない」
……なんか、今、不可能とかって、言ったような気がするんだけど。
コントロールって、不可能なんですか?
「おそらく、マリアンヌ殿の論文完成のためにお前はモルモットにされるだろうが、それをきちんとこなし、そしてマリアンヌ殿を落としてこい」
そして、イングリフ様は俺の肩に手を置き、耳元に口を近づけた。
「これは、お前にとってチャンスだろう?彼女と一緒にいる理由ができて、内心大喜びしているのだろう?」
「なんでそうなるんですか!そんな、チャンスとかって、そういう問題じゃないでしょう!」
「騒ぐな」
厳しい顔でイングリフ様はそう言って、マリアンヌ殿の屋敷を見た。
そして屋敷に変化がないことを確かめてから歩きだした。
仕方がないのでついて行く。
「お前、いつまでもヘタレのままでいいのか?」
「ヘタレ?」
そんなこと言われたことがなかったからびっくりしたが、イングリフ様から見たら俺などヘタレというか小童とかそんな感じにしか見られないのだろうと思う。
「お前の腕が立つのは認めよう。努力家だし技術的には申し分がない。そんなお前に足りないものが交渉術なのだ。メンタルが弱いのだ。その強化のための任務でもあったのだよ」
「そうだったんですか?」
確かに、マリアンヌ殿が関わってくると、俺のメンタルはボロボロになる。
「そうだ。これは、訓練でもある」
イングリフ様は、強い口調でそう言った。
「マリアンヌ殿を落とすことは、お前の欲望を満たすためではなく、お前の成長も促し、そして国家のためにもなるのだ」
「そ、そ
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