森と海

 雰囲気を醸し出すためにわざと照明を落とした店内。
 仄かな光が点々と店内を淡く照らし、窓には分厚い黒いカーテンで部屋の風景がぼやけて映る。

 (……ハァ。まったく人間というのはどうしてこう、内装やら雰囲気やらを重要視しるのだろう。腕さえ確かなら、どこでやろうがどんな場所でやろうが変わらないだろうに)

 ――それは確かにその場所によって占いに影響する場合もあるか。


 今日もオリアスは、自分の店である「 Dawn Night 」の店内で占いの準備を既に終えて客が来るのを待っている。。
 フード付きのマントを身にまとい、白ひげを机の上にのせて腕を組みイスに憮然と座っている。

 世にいう「悪魔」は、陽の光がダメ。十字架がダメ。人間を襲う。
 などと言い知られているが。実際の悪魔はそんなことはない。
 陽の光も大丈夫だ。十字架だって触れられる。人間なんて襲わない。

 ……だが、確かに人間には悪影響を及ぼしてしまう存在ではあるが。


 「はぁ……。全く、あの腐った世界を見限ってこちらの世界にきたというのに」

 (どうして他の悪魔までやってくるのだろうか。おかげであっちとはまた違った疲れが……)


 っと、その時。カランカランと、店の玄関の扉についている鈴が鳴って人の訪れを知らせた。
 占い師の恰好をしようと白ひげに手を伸ばした時、入ってきた人間の気配を感じ取りその手を止めた。

 「……」
 「こんにちは、オリアス」
 「…なんだ、君か」
 「お店は…もう開いてるんだよね?」
 「そうだが」
 「ま、いいや。はい」
 「……なんだ、これは」
 「ん?私が作ったオリジナル香水が入ってるの。とにかく開けてみてよ」
 そうルリに促されるままに手渡された小袋をあけたオリアスは、コロンと手の平に転がった香水瓶を光にかざしてみた。
 「……色は、青。か?」
 「うん。香水瓶を青色にしようかなぁ、とか思ったんだけど。緑〜碧の薄い透明なグラデーションにして。そこからだんだん上に行けば濃くなるから。中を青色にして綺麗な色を作ろうと」
 「……」
 確かに強くした光に照らした香水瓶は、そこの方は青色で蓋のほうは濃い深緑になっている。
 「………良い香り、だな」
 「本当?良かった……」
 蓋を開けて嗅いだ香りは、強くなくクセもなく落ち着ける香りだった。
 そして不思議なのが、草…森のような匂いがするのに。かすかに潮の香りが漂ってくるのだ。
 「…この名前は?」
 「ああ、えっと。ローヴァス≠チていうの」
 「ローヴァス…か」
 もう一度蓋をあけて匂うと、とても心地いい香りが体を行きわたる。
 「じゃあ、用事はそれだけだから」
 「……ありがとう」
 「?……ううん、お邪魔してごめんね。気に入ってくれて、ありがとう」
 ルリはバイバイと手を振って店を出て行った。
 
 オリアスはテーブルの上に新しく置いた透明ガラスの器に、ルリから貰った香水瓶から1滴落とし。瓶は懐にしまった。

 ルリが出てから5分ほどして、人間の客がやってきた。

 
10/08/13 23:24更新 / 久遠
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