バイトを終えてマンションへ帰ってきて、しばらくすると和真がやってきた。
「出せ」
そう言って、和真は僕に右手を出した。
「何を?」
「シフト表だ」
「あぁ……」
あれ、本気だったんだ。
僕は部屋に置いてある鞄からシフト表を出して、すでにリビングでくつろぐ体勢になっていた和真に持って行った。
別に、いつ辞めたっていいから、どうでもいいんだけど。
「はい」
和真は何も言わずに受け取って、シフト表を穴が開きそうな雰囲気で見ていた。
そんなに凝視しなくてもいいんじゃないのかな?
何をそんなに見る必要があるんだか……。
しばらくかかりそうかな?
ヒマだと思ってテレビをつけた。
面白そうな番組がなかったからDVDでも見ようかなと思った。
「なんか観たい番組ある?」
「ない」
シフト表から目を離さずに和真は言った。
「あ、そう」
じゃあ、僕が観たいの観よ。
こないだ買った映画でも観ようかなと思っていると、
「なんだ?このシフトは」
と、和真が怒りだした。
「なんか変なの?」
バイトとかってしたことないから、このシフト表が変なのかどうなのか、よくわかってないんだよね。
「瑞希の帰りが9時過ぎるのとかあるじゃないか!」
ホントにこの男は、何を見ているんだ?
「俺の可愛い瑞希が、そんな時間にひとりで夜道を歩いたら、変質者が襲ってくるだろうが!」
……何て答えるべきなのかな?
『大丈夫だよ』と、言ったら、『俺の瑞希が可愛くないとでも言いたいのか』って言いだすだろうし、桜井さんってホントに可愛いから、そういう心配もあながち的外れでもないし。
でも、そう言ったら、和真の心配に拍車をかけるだけだし。
「岩崎! これ、俺によこせ!」
シフト表を握りしめて和真が言った。
「じゃ、コピーしてくるよ」
反論する気も起きない。
僕はそう言って、和真が握ってグシャグシャにしたシフト表を広げ、プリンターでコピーして和真に渡した。
それを見ながら、和真は満足そうな顔をしていた。
呆れてそれを見ていると、和真が僕を抱きしめてきた。
「岩崎、バイト、辞める必要ないぞ。これからも続けて、シフト表を俺に渡すんだ」
僕、どうしてこんな男が好きなんだろう…………?
そのまま押し倒されながら、思った。
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