落ち着け、俺。
落ち着くんだ。
味の意見を、言えばいいじゃないか。
「た……、たしかに、味気ない食糧だな……」
「そぉ?」
「あぁ……」
「ふーん」
マリアンヌ殿は、そう言って、膝を抱えて丸まってしまった。
「……マリアンヌ殿?」
恐る恐る呼びかけてみたが、マリアンヌ殿は顔を上げなかった。
……アレを、美味いと言わなければいけなかったのか?
美味いっていうか、味がよくわからなかったっていうか……。
でも、まがりなりにも、マリアンヌ殿の祖国の食糧なわけだから、それを貶されたと思ったんだろうか?
自国の食糧を貶されて、嬉しいと思う者はいるだろうか?
……いないかもしれない。
「マリアンヌ……殿?」
「お腹、空いた……」
「え?」
「もーダメ、限界」
……怒った、訳じゃなかったのか。
少なからず、ホッとした。
……それでこそ、マリアンヌ殿っていうか。
「残っている『おかゆ』を、食べたらどうだ?」
「いい……。食べたくない」
「でも、非常事態だし、この際、味なんて、どうでもいいだろう?」
「っていうかヴォルク」
そう言って、マリアンヌ殿は俺の顔をムッとした顔で見上げた。
「……なんだ?」
「さっき、せっかく私がキスしてあげたのに、ぜんっぜん嬉しそうじゃなかったんだけど」
はぁ?
「やっぱ、ホントはイングリフさんが好きなんだ」
そう言って、マリアンヌ殿はまた丸くなる。
「違うぞ、そんなこと、全然ないぞ。いったいどんな勘違いをすれば、そんなことになるんだ?」
慌ててそう言った。
ありえないっていうか、どうしたらその発想になるのかが、もうすでに全然わからない。
「認めるはずないってこと、わかってるもん。男同士で好き合ってるなんて、言えるわけないもん」
「違うぞ!それは絶対ありえないぞ!」
「テレビでお笑い芸人が言ってたもん。浮気は絶対に認めたらいけないって……」
なんだそれは!どこのお笑いだ!
「それとも、浮気じゃないから認められないの?イングリフさんが本気で、私が浮気?」
言葉が出てこなかった……。
もう、なんていうか、否定するのもバカバカしいというか……。
ありえないだろうが…………。
「そうだよね。私と付き合ってるってことになれば、ノーマルってことになるじゃん。そうしたら、イングリフさんとのこと、バレないで済むもんね」
……なんかもう、マリアンヌ殿の中で、勝手に話ができあがってるっていうか。
「ど……、どうして、そう思うんだ?」
なんで、俺の話を聞かずに、マリアンヌ殿の中ではそういうことになってしまっているんだ?
「だって、ヴォルクから誘ってくれること、ないよね」
そう言って、パタパタとマリアンヌ殿が涙を流しているのを見て、完全に固まってしまった。
俺は、このひとを、また悲しませてしまったんだと……。
でも、誘うって、ムリって言うか……。
男たるもの、そんなこと、できないっていうか……、なんていうか。
けれど、それでマリアンヌ殿を不安にさせて、また例によって、あのクソッたれヘンタイ獣人上司の小説を真に受けてしまったということなのか……?
そんな心配、いらないのに……。
あんなクソったれヘンタイ獣人上司のことなんて、一応、尊敬のようなものはしているような感じだけど、マリアンヌ殿と比べてしまったら、へでもないっていうか……。
そもそも比べるのが間違ってるっていうか……。
マリアンヌ殿を抱きしめようとして手を伸ばそうとしたけど、鎖がつながっていたからできなかった。
「マリアンヌ殿、こっちに来てくれないか?」
うるんだ瞳で、マリアンヌ殿がこっちを見た。
「これでは、そっちに行けないんだ」
そう言って鎖を見せると、マリアンヌ殿は少しずつ移動してきた。
手が届くところまで来た時、マリアンヌ殿を引き寄せて、抱きしめてキスした。
ごちゃごちゃ言うの、なんかもうめんどくさい。
鎖が邪魔だったから、壁にマリアンヌ殿を押し付けた。
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