休憩挿話 〜ケスタロージャさんの相談〜

このところ、困っている事がある。
そう言われて公園まで来てみると、確かに困ったオーラを全身に纏ったケスタロージャが、ベンチにちょこんと座っていた。
どう驚かせてやろうかと忍び足で近づいたら、僕の後ろで散歩していた犬の鳴き声に、
彼が振り返る。
‥‥‥失敗したか。

「ミルズ‥‥‥」

「やぁ、ケスタロージャ。言われたから来たけど、悩み事?」

「‥‥‥そうなのですが。」

片手を挙げて、親しい友人にそうする様に、僕は笑いかける。
そんな僕の笑顔に、なぜか恨めしそうな視線を投げかけながら、
ケスタロージャは視線を正面に戻す。
僕は何も言わない彼の隣に座って、とりあえずは彼が話し始めるのを待つ事にした。

「実は、最近知り合った女の子が、何か悩んでいるみたいで。」

早速面白い話をしてくれると、僕は彼からもっと情報を聞き出そうとした。

「どんな子?何の悩みなの?」

「く、詳しくはちょっと‥‥その、恋の悩みのようで、私では力不足と思って‥‥‥」

「‥‥‥うん、確かに。」

自信無さ気にする彼に、僕はもっともだと告げる。
僕の知っている限り、ケスタロージャに彼女がいた事は無かった。
たとえ彼に言い寄ってくる女性がいたとして、彼の方から敬遠して‥‥‥
というよりも、離れていってしまうだろう。
そんなケスタロージャに女の子の知り合いなんて、これ以上面白い話題なんて無いな。
‥‥‥最近は、下宿している彼女は何だか上の空で、話す時間が減っちゃったし。
弄っていて面白いのは、彼女の次にケスタロージャくらいだからね。

「それで、僕に相談したと。」

「は、はい。」

「ん〜力になってあげたいんだけど、僕だって恋愛経験豊富なわけじゃないよ?」

「え?」

「あれ、そんな風に見える?」

「い、いえ、そういうわけじゃ‥‥‥」

僕に恋愛経験が少ない事が意外だったのか、ケスタロージャは何とも驚いた顔をする。
前の仕事も、今の生活からしても、恋愛経験が多くなる要素は無いと思うんだけどな。

「ま、アドバイスはするけど。その子の特長とか、相手の特長とか分からない?」

とりあえずは、相談してくれた彼に対して最大限の苛め‥‥じゃ無くて、
解決方法を探してあげるのが、今の僕の役目かな。
その子がどういう子なのか知らない事には、相談も何も無いし。

「え、えっと、特徴は‥‥女性らしくて、元気で活発で、笑顔が似合う‥‥‥」

「あはは、ケスタロージャはそういう子が好み?」

「ちが‥‥!私が話しているのは‥‥!」

「分かってるって、ごめん。それで、どういう風に悩んでるのか聞いてる?」

すぐに真っ赤になって反論するケスタロージャは、どこか‥‥‥
そうだ、いつもその姿を見ている彼女に似ている気がする。
‥‥‥そう、セルトと一緒にいるとすぐに真っ赤になって、
分かりやすいくらいに反応を示す、あの少女と。

「‥‥‥なんでも、相手に対して抱いている感情が、恋なのかどうか分からない、と。
周りの人にも色々言われているみたいで、恋って何なのかと聞かれまして‥‥‥」

「なるほど‥‥‥確かにそれは難しい質問だねぇ。」

何とも難易度の高い質問を、その手のことに経験が薄そうな相手にぶつけるものだな。
きっと相手をこんなにも悩ませている事なんて、これっぽっちも‥‥‥と、
そこまで考えたところで、僕の思考にはひとりに人物が浮かんだ。

「‥‥‥‥‥。」

「ミルズ?」

あぁ、そうだ。
ケスタロージャの話す女の子は、あの子に重なるところがあるんだ。
天真爛漫で、いつも笑顔を振りまいていて、わかり易過ぎるくらいに純情で、
相手の言動をすぐに信じるくせに、自分が他人の気持ちを振り回していることなんて、
全くもって気付きもしない。

「‥‥そうだね、答えにはならないけど、とりあえずその子にこう伝えてくれる?」

「何か、良いアドバイスが‥‥?」

だから、もういっそのこと、その子だってケスタロージャの言動に、
振り回されてしまえばいいんだと思った。

「とりあえず押し倒せ。」

「‥‥‥な、なななな?!」

「じゃ、よろしく伝えておいてくれ。」

予想通りと言ってはなんだが、一瞬意味を理解しかねていた様子だったが、
意味を理解したとたんに、ケスタロージャは真っ赤になってあたふたとする。
そしてそんな彼を残して片手を上げると、僕はベンチを立った。
彼を苛めるのも面白いけど、やっぱり違うと分かったから。







「‥‥‥‥‥。」

カラコロと音も静かに開いたバールのドアから入ってきたのは、
僕が待ちわびていた少女、だったのだけれども。

「おかえり‥‥って、どうかしたのか?」

セルトがそう聞いたのも無理はない。
学校から帰ってきた彼女の顔は、これ以上ないくらいに真っ赤に染
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