写真展を開くのが夢!が口癖の彼女が、
何故だか今日は授業をずっと上の空で聞いている。
そんな少女の隣に座っているイナちゃんは、そんな彼女の様子が気になっていた。
何かあったのかと聞いてもいいものか、けれどいつの元気な彼女のことだ。
自分では相談にも乗れない悩み事かもしれない、でも聞くくらいなら‥‥‥
「はぁ‥‥‥もう、セルトが変な事言うから‥‥‥」
横顔をじっと見つめるイナちゃんの心の中での葛藤など露知らず、
本人が知らぬうちに、周りに心配をかけている少女は、
今朝バールを出る前に、セルトに言われたことについて考えていた。
『兄貴に告白しないのか?』
言われたときは突然の言葉に、当然のことながら焦ってしまったが、
ミルズさんのことは確かに好きだ、コレは嘘ではない。
けれど、セルトと同じように家族としての好きなのだと思う、というか、きっとそう。
というのが、彼女の見解であり現在の気持ちだった。
(それにそうよ!恋は突然に始まるもののはずだよね。
ミルズさんとの出会いは‥‥‥特に変わったものじゃなかったもの。
曲がり角でパンを咥えて走ってたらぶつかるとか、
空から降ってきた私を、ミルズさんが受け止めてくれたとか、
そんな劇的な出会いじゃなかったものね、うん。
やっぱりセルトの思い違いよね!)
この恋愛観のソースは、おそらく誰もが予想がつくであろう、
少女マンガ及びロマンス小説だったりする。
救いがたいほどに本の中の出来事を、丸々現実と重ね合わせてしまっているこの少女、
疑うことを知らないピュアな子といおうか、ただのお馬鹿と言おうか、
とても迷うところです。
「あ、あの‥‥‥な、何か悩み事ですか?」
「え?」
と、彼女がある意味のんきに考え事にふけっていると、
その間にも、悩み事があるのかどうか聞くことを迷い続けていたイナちゃんが、
意を決して彼女に話しかけた。
聞かれた本人はと言うと、さっきの今で悩みは解決してしまったので、
イナちゃんが何故そんなことを聞いてくるのか、いまいち理解できていない様子。
「悩みは‥‥‥特に無いけど、どうして?」
「あ、無いならいいんです。何だかぼんやりしているみたいだったので‥‥‥」
「そう?大丈夫よ、芸術系の授業以外は、ちょっと気合が入らないだけだから。」
先生に怒られそうなことをさらっと口にするこの少女、
けれどイナちゃんの心配は素直に嬉しいらしく、にっこり笑って大丈夫と言って見せた。
「ダンテ、ロダンちょっと待ってよ〜!」
「あはは、やっぱり君と一緒だとダンテもロダンも嬉しいんだよ。」
「わ、笑わないでください!ミルズさん助け‥‥きゃあ!」
「おっと‥‥さすがにこれ以上は無理かな。僕が手綱代わるよ。」
「あ、わ、わ‥‥‥お、お願いします。」
二匹の犬に引っ張られ、危うく歩道につんのめりそうになる少女を支えたミルズさん。
さっきまでの焦り顔は何処へやら、頬から耳から真っ赤に染めて、少女は手綱を渡す。
「あれは‥‥‥あ、もしかして‥‥‥」
そこへ通りかかって、先程までの一部始終を目撃したイナちゃんは、
彼女の様子を、今朝の授業中の様子と照らし合わせて、閃いた。
きっと、授業中にボーっとしていたのは、あの男の人に関係があるに違いない、と。
意外にも人間観察をしているイナちゃん、いつも芸術以外の授業でも一生懸命な彼女が、
ボーっとするにはそれなりの理由があるはずと”気合が入らない”というあの言葉を、
丸々信じていたわけではなかったのです。
なるほど、なるほどと納得の言ったイナちゃんは、
友人が、しっかり恋していることが嬉しくなって、いつもよりも軽い足取りで、
暗くなる前にと、家路を急いだのでした。
「この子達と一緒に走って、疲れたんじゃない?顔真っ赤だよ。」
「え、えぇ、はい。つ、疲れまして‥‥あはは‥‥‥」
夕焼けの公園、二人して芝生の上に座り込んだら、ミルズさんが笑った。
いつも見ているはずのその笑顔に、今日は何だか照れてしまって、
うまく言葉が出てこなかった。
『告白しないのか?』
告白、か。
私がミルズさんに告白するとして、何を告白すればよいのかな。
”家族として大好きです”とか‥‥‥でも、コレはセルトにも言えることだし、
わざわざ言わなくても、ミルズさんはそういうの分かってくれてる気がする。
「ん?どうかした?」
「あ、なんでも、ないです。」
無意識のうちにじっと見つめてしまっていたのか、ミルズさんが私に問いかける。
言わなくても‥‥‥いいよね、まだ。
まったく、今日は一日セルトの言葉に振り回されちゃったよ!と、
いつも自分が周りを振り回していることなど露知らず、
セルトに何て文句を言おう、また”セル
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