とある獣人の憂鬱−序説

最近、気になる人がいる。
それは我が国の第三王子アルト様の個人教授マリアンヌ殿だった。
親衛隊員として、王家の客人である彼女の護衛は任務のひとつでもある。

彼女は異国の人だった。
我が国では当たり前の獣人も、異国では珍獣である。
彼女を迎えに行った時、はじめてみる獣人の俺を呆然とした顔で見ていた。

獣人としての能力を買われてアルト様の個人教授となる人を連れてくる役目を負ったのだから、どんな状況でも任務をこなすことは当然のことだった。
避けられたとしても、俺は彼女を護らなければならない
それが俺の使命だから。

奇異の目で見られることも、覚悟していた。
それでも俺は、マリアンヌ殿のことを護らなければならない。

でも、マリアンヌ殿は順応が早く、我が国に着く頃には獣人の俺に慣れてしまった。
さすが、王子の個人教授になるだけの人だと思ったのだが、それから俺の生活は、一変したような気がする。

マリアンヌ殿は、今までの個人教授とは明らかに異なっていた。
黙っておとなしくしていればかなり美しい人なのに、その外見にふさわしくない言動が多くみられた。
その行動は常軌を逸していて、こちらが驚かせられることが多い。

そして、マリアンヌ殿は獣人の俺にすっかり気を許し、避けるどころか探して押しかけてくることすらある。
今ではマリアンヌ殿が何かをしでかすのではないかと、気が気ではない日々を送っている。

それでも、俺はマリアンヌ殿が安全に我が国で過ごせるよう、護り続けなければならない。
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