「……うーん、なんだかなあ」
手中に収まったカメラをじっと見つめて小さく呟いた。
なんだか今日はこれと言って納得できる写真がなかなか撮れない。
気分が落ち込んでいるわけでもないのに。
それなのに、一枚も納得できる写真が撮れないだなんて大問題だ。
空を仰ぎ見ても雲はあまりなく、夕日で綺麗な橙に染まっていた。
問題は空の天気ではなさそうだ。
「別に落ち込んでなんかないし……うん、別に」
自分で言葉にして少し後悔する。
小さく呻き声を漏らしてその場にしゃがみ込んだ。
落ち込んでいないだなんて、嘘。
本当はすごく落ち込んでいる。彼が今日も此処に来て居ないから。
路地裏に写真を撮りに来てるのは、彼に会う為ではない。
が、会えたらいいなという下心がないわけじゃない。
だから何時も此処に来るたび期待してしまう。
彼が居るんじゃないのだろうか。今日は来てるんじゃないのだろうか、と。
そんな期待を裏切られ続けて早三週間。
流石の私でも落ち込んでしまいますよ、掌くん。
それでもやっぱりあと少し、もう少しと待っちゃうのは好きだから仕方がない。
今日もまた暗くなるまで此処で待とうと意を決して立ち上がる。
がらんと私だけしか居ない裏路地が寂しくて、溜まった不満をちょっとだけ吐き出した。
「うぅ……帰りが遅くなったら掌くんの所為なんだから」
「なんで俺の所為になるんだよ」
背後から少し苛立ちを含んだ声が投げられ、硬直した。
恐る恐る振り返れば、そこには密かに待ち続けていた掌くんが立っていた。
眉間に皺が寄っている気もするが、気のせいとしておこう。
「あ、えっと……久しぶりだね」
「学校で会ってるだろ」
「う……いや、此処で会うのは久しぶりでしょ? だから久しぶりなの!」
「ふーん」
さも興味がありませんとでも言うような言葉の返しに少し凹む。
どう言葉を返すべきか私は思い悩んで、口を噤んだ。
私は掌くんに会えてこんなにも嬉しいのに、掌くんは嬉しくないのだろうか?
まあ、片想いしてるのは私だけだから仕方ないのかもしれないけど……。
ちょっとぐらい意識して欲しいだなんて、おこがましいかな?
「……悪い、邪魔したみたいだな」
「え? あ、もう行っちゃうの? 来たばっかりなのに」
「写真撮ってるんだろ、あんた」
「うん」
「だったら邪魔だろ。俺が此処に居ても、気が散るだけだろうし」
確かに、掌くんが傍に居ると注意力散漫になってしまう。
けれど掌くんが居ると自分の納得できる写真がよく撮れるのも確か。
などと悶々と考えを巡らせていると、踵を返して帰ろうとする掌くんが視界に映った。
私は頭で考えるよりも早く、掌くんの腕に抱きつくような形で彼を引き止めた。
びくりと彼の肩が揺れるのが分かった。
(あ! ……咄嗟とはいえ、抱きついちゃった)
私は慌てて掌くんの腕から離れて、苦笑して見せた。
アクシデントだったものの近くに彼を感じてしまった所為で頬が熱くなりだす。
気付かれないように顔の前で両手をぶんぶん振りながら何度も謝罪した。
「ご、ごご、ごめんね? わざとじゃなくて、その……不可抗力というか」
「不可抗力? 故意の間違だろ?」
「違うよ!」
明らかに故意に見えるかもしれないが、不可抗力……ではないかもしれないがあれはアクシデント。
触れたいと思わなかったわけじゃないけど、抱きつこうと思ったことは……なくもないけど。
でも今回のことは本当に故意じゃない! アクシデントです!
即答した私に彼は多少驚いたように目を見開くも、何時もみたいにそっけない態度に戻ってしまった。
どう話を続けようかと宙に視線を泳がせながら、口を開閉させる。
しかし言葉が続かなくて、私のことを不思議そうに見つめる掌くんに苦笑を向けた。
「…………」
「あ、えっと……写真、撮ってもいい?」
「勝手にしろ」
「ちょ、何処行くの!?」
「写真、撮るんだろ?」
「うん、掌くんの!」
カメラを構えてレンズ越しに彼を捉える。
呆れたような、不思議そうななんとも表現し難い表情で彼が此方を見ていた。
レンズ越しに視線が合う。気恥ずかしいけど嬉しくもあって私は目が離せなかった。
何時もなら直ぐに恥ずかしくなって視線を外してしまうだろう。
でもそうしないのは、レンズ越しに彼を見ているから視線が合っているなんて彼には知られない。
だから今だけでも。
シャッターを切るたびに、愛しさが増すような気がした。
一枚、また一枚と彼の写真が自分のカメラに収まるたび、胸が高鳴った。
掌くんの気持ちが、いっそのこと写
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