「見てセルト!」
「…なんだこの黒いスープは」
「私の国の冬の定番料理でおしるこって言うんだよ」
食べてみて! と、嬉しそうに差し出されたそのスープは黒いし、石みたいな粒と白いのが浮いてるし…。
正直食べたくねぇ。
とは思うものの、こいつの笑顔を目の前に無下に断ることが出来ない。
「お前のは?」
「私は味見しすぎてお腹いっぱいだからいいの。セルト食べてみて?」
せめて目の前で食べてくれればと思ったのだが、そんなにうまくはいかないみたいだ。
とりあえず黒いスープを受け取って鼻を近づけるとかなり甘い匂いがした。
「あ、あとこれ。セルトには使いづらいとは思うけど一応雰囲気だから」
そう言って手渡された二本の棒…これは見たことあるな。
確かこいつの国のご飯を食べるときの道具だったはず、この黒い物体は一応スープだよな…? それなのにこの棒を使わなくちゃいけないのか。
「この棒はどう使うんだ?」
「セルトの使いやすいように使っていいよ。流石に正しい持ち方とか教えてたら食べづらいだろうし」
「…そうか」
言われたとおり持ちやすいように持って黒いスープをかき混ぜてみた。
すると石かと思っていた粒と白いのが意外と柔らかい事に驚いた。
黒い粒は豆っぽいな、って事は匂いほど甘くはないのかもな…。
「…セルト、別に無理しなくてもいいけど」
「え?」
「さっきから睨みながら混ぜてるだけだし」
「あ…悪い」
「いいよいいよ。見たことないものは手付けづらい気持ちわかるもん」
私もそうだったから。と、苦笑するこいつに少し申し訳なくなりつつも食べなくていいと言われたことに内心ほっとしていると、こいつは俺の手から黒スープの器を受け取った。
「ミルズさんはさっきつまみ食いしてたから大丈夫みたい」
「あ、兄貴は食ったのか?」
「うん。鍋から直接掬って食べてたから舌火傷してたよ」
「そうなのか…」
「モルガンさんは今日来るかな? モルガンさんにも食べてもらいたいな」
「…」
そこまで聞いて思わず黒スープを取り返すと、こいつは不思議そうな目を向けてきた。
「どうしたの?」
「く、食う。俺が食うから」
「でも…嫌なんでしょ?」
「………そんなこと、ない」
「セルト…そんなに眉間に皺寄せてまで食べなくてもいいんだから」
どうやら無意識に険しい顔をしていたらしい。
ハッとしてみればこいつはまた俺の手から黒スープの器を奪おうとしていて、俺は慌てて黒スープを口に含んだ。
「…セルト、大丈夫?」
「…ああ」
「どう?」
「…甘いな」
「そうだね…そういうもんだから」
「…うまいな」
心配そうに覗き込むこいつの頭を軽く撫でれば安堵に顔を歪めた。
「あんなに嫌そうだったのによく食べる気になってくれたね」
「…まぁ、せっかくお前が作ったんだし、色々な料理を知っておきたかったしな」
「そっかー。でもセルトが食べてくれてよかった! この白いのも美味しいから食べてみて」
「おお」
兄貴や先輩がこいつの料理を食べて、しかもそれでこいつが嬉しそうに笑うんだと思うと悔しかった。
とは、とりあえず言わないでおこう。
END
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