料理を作るとき、テーブルを片付けるとき、注文取るとき、洗い物するとき。
今日はやけにあいつからの視線が向けられてる気がする。
…いや、向けられてる。
今日一日で何度目が合ったことか。
見られるのが嫌な訳ではないけど…気恥ずかしい。
そう思って後半は気にしないようにキッチンにいると、後ろから声をかけられた。
「セルト」
「なんっ…!?」
振り向けば意外に近い距離にあいつがいて、思わず声が詰まった。
「な、何なんだよ? 今日一日ずっと、じろじろ見られて…居心地が悪かったんだけど」
さり気なく距離を取って平静を装えばあいつはのんきに笑って言った。
「セルトってキスするときどうするの?」
「…は?」
「それピアスだよね? キスするとカチッてなる?」
「お前は…ずっとそんなこと考えて俺を見てたのか?」
「うん。どうしても気になっちゃって、最近シャッターが押せないんだよね」
「そんなにか!?」
驚く俺にこいつは眉間に皺を作って、わざとらしく悩んだ様子を見せる。
そんな事したって可愛いだけなんだけど…。
「そんなに気になるって言うなら教えてやってもいいけど」
「本当?」
パッと明るくなった表情にこっちもつられて笑顔になるのがわかった。
どんな感じなの? と、興味心身に近寄ってくるこいつの両肩を優しく掴んで顔を寄せてみた。
「でもな、口で説明するのも面倒だから、実際に体感してみるか?」
「…え?」
「ほら、お前の国にも聞くより実感しろみたいな言葉があるんだろ? 実際に唇合わせてみたほうがわかりやすいんじゃないか?」
「あ…あの。えっと…私、やっぱり大丈夫! ありがとう!」
ゆっくり顔を近づけていくと、顔を真っ赤にして慌てて自分の部屋に逃げてしまった。
何も言わないでしちゃえば良かったか…。
少しの後悔をして作業を再開したとき、また視線を感じた。
不思議に思ってそっちに顔を向ければ兄貴が覗いていた。
「…兄貴」
「セルト調子に乗るんじゃないよ」
「は?」
「あの子はセルトのことが気になったんじゃないんだよ。唇のピアスが気になっただけなんだから」
「そうか…」
「…口のピアスって、痛いの?」
「………」
兄貴……羨ましかったんじゃねぇか。
END
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