「女性像の依頼があってね。モデルをお願いしたいと思っている人がいるんだけど…。」
五線譜から視線を外さずにイレールの話を聞く。もちろんペンを走らせながら、話の内容は上の空。返事は適当に。
「どうかな?」
ペンにインクを含ませる。
「アルト王子の“あの”先生。」
ボトッ。
その一言を聞いて自分の体が硬直したのがわかった。
ペン先から勢いよく大きな音を立ててインクが落下する。
完成間近の譜面を一枚使い物にならない状態にしてしまったが、今はそれどころではない。
「そんな事、ダメに決まっているだろう!!」
下に向けていた視線をイレールに移し、発した大声に自分でも驚く。
壁にもたれて、軽く溜息をつくと
「ま、そう言うだろうと思ったけど。」
口の片端を軽く持ち上げ、彼はゆったりと腕を組んだ。
何だか心の中を見透かされているようで急に居心地が悪くなり、先程汚してしまった手元の譜面を一枚握り潰して外へと飛び出した。
「…モデルって、別に裸婦像とか言った覚えはないんだけど。ね。」
背後でクスリと笑い、呟くイレールの声など耳に入るはずもなく。
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