音楽室にウェンディング曲が流れる
「兄さん――兄さん――」
「イーヴ兄さん!!」
名前を呼ばれてハッ、と気づく
「ああ――イレールか」
「大丈夫かい?さっきからずっと同じ曲ばかり弾いているけれど」
「すまない。つい無意識に」
イレールが隣でため息をつく
きっと原因はあの噂だろう。
『雪凪教授が結婚する』
この噂が最近の自分をおかしくさせる。
自分は式に呼ばれるのだろうか?
その場合はきっと曲を弾いてくれと頼まれるのだろう
その時の俺は平常心で居られるのだろうか?
そもそも相手は誰だ?
俺の知っている奴か?
この宮廷内の人物か?
「兄さん、また何処かへ思考がトリップしてるよ」
「はあ――最近はこればかりだ」
「いっそ、本人に聞いてみたらどうだい?只の噂だろう?」
「それがもし事実だとしたら俺はどうすればいいんだ」
「事実じゃないかもしれないじゃないか」
「いや、最近の雪凪は凄く楽しそうな顔をしているんだ。何かいいことがあるみたいで」
「まったく兄さんは・・・ことごとくネガティブだね」
それはもう仕方がない。
誰でも惹きつけてしまう雪凪はきっと好意を抱く連中が多いのだろう。
そしてその中の一人がそれを勝ち取ったのだ。
「おっ、噂をすれば――」
イレールが窓を覗く。俺もつられるように窓の外を見る
外には雪凪が夢中になって草花をみている。
きっと、また何かの研究なのだろう
そういえば、久々にちゃんと雪凪を見た気がする
いつもたまたま見かけるだけで、最近はここにも来てくれない
ああ――こっちに気がつかないかな
「あっ、こっちに気づいたみたいだね」
「えっ――?」
満面の笑顔で、こちらに大きく手を振る彼女
「まあ、結局は彼女が幸せなのが一番嬉しい」
この胸の高鳴りが鳴りやまなくても
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