「ルリ!」
「キア?」
「ああ、そういえばこいつもいたんだったな」
いつも恨めしくなるほど真っ白な顔を今は真っ青に染め上げ、額や首筋には汗をかいて髪は乱れながら部屋に駆けこんできたマルコキアスを見て。ルリは不思議そうに首をかしげた。
「ああ、ああ、どこか怪我していないですか?何か気分が悪いとかは?ああ……っ、手首に傷が」
マルコキアスはまるで自分が傷を負っているかのように苦痛に顔を歪め、聴いているほうが辛くなるような悲痛な声を出す。
「大丈夫よ、こんな程度。舐めとけば治るから」
「何を言っているんですか!早く帰って消毒しますよ!!」
「あ、ちょっ、キア」
マルコキアスはルリの身体を簡単に横に抱きあげ、颯爽と事務所を出て行く。
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「ねえ、キア」
「何でしょう」
「1人で歩けるわよ?」
「何を言うんですか。貴女は連れ去られた身ですよ?大人しくしていてください」
「でも……」
「ルリ」
「はい…」
いつもはルリの意見に渋りながらも同意するキアだが、この時ばかりは一切引かなかった。
「キア……」
「何でしょう」
「ごめんなさい。………ありがとう」
「いえ」
ぽつりと呟いたルリの言葉に、キアは今日初めて柔らかな笑みを浮かべた。
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