「じゃあ…岩崎さん、先、上がりますね?」
私はぎこちない手際な岩崎さんに声を掛けた。品揃えをしている岩崎さんは、後ろに立っていた私に気付いて、立ち上がり、笑みを浮かべた。
「はい、お疲れ様です。岡崎さん」
「あの…岩崎さん。岩崎さんの方が年上なんだから…呼び捨てでもいいんだよ?」
私は恐る恐るそう言うと、岩崎さんは「いえ…」と言葉を紡いだ。
「岡崎さんを呼び捨てにしたら…和馬に殺されちゃうから」
「…へ…?」
「あ、やべ、何でもないです」
そう言って岩崎さんは何事もなかったようにニコニコと笑っている。ってさっき…お兄ちゃんに、殺される…って言ったよね?
…まさか…ねぇ?
「あ、うん、じゃあ…また」
「はい、あ、夜道、気をつけて下さいね」
私の事を心配してくれている岩崎さんに会釈をして、私はさっきバイト中に自腹で買ったシュークリーム特集の雑誌を鞄から取り出した。
「よし!今日が頑張って特訓しなきゃ!」
そう言って雑誌を読みながら気合いを入れていると、ドン!と誰かの背中にぶつかるような衝撃を受けて、私は尻もちをついた。
「きゃ!」
「…え、岡崎…?」
声の主に私は驚いて、一気に顔を上げた。そこには私を見下ろしている(というよりも私が尻もちをついているからそう見えるだけか)清水君の姿があった。
「清水…君?」
「うん、大丈夫か…?」
いつまでも尻もちをついている私に清水君は手を差し出してきてくれた。その手を握って私は立ち上がり、お尻をパンパンと叩いた。
「岡崎…疲れてるのか?」
「え!?だ、大丈夫だよ!」
そう言っても清水君はまだ心配しているような顔だった…といきなり清水君は何か思い出したのかおもむろにポケットに手を突っ込んで、何かを探している。
「岡崎…これ、あげる」
「え…これって…?」
「飴玉。それ…結構美味しいから」
清水君は少しだけ微笑んで、私に飴玉を渡してきた。私は少しだけ躊躇しながらもそれを受け取った。
「じゃあ…あんまり根詰めるなよ?」
「う、うん!あ…ありがとう、清水君!」
「じゃあ、気をつけろよ?」
「うん!」
そう言い終わると清水君は歩いて行った。私は清水君から貰った飴玉を口に放り込んだ。
「…甘い…」
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