わたしたちが両想いになってから二カ月が経った。まあ、そ、その…俗に言う、こ、恋人ってやつになったってことなんだけど…。そんなに以前と変わりはない。
確かに、あのストーカーっぽい女子生徒はそれ以来見かけることはなくなったし、クロセルが公園に出没する回数も減ってきた。でも…――――
「なに? どうしたの、リリー」
「え、あ、ああ。なんでもない」
そう? と首をかしげたクロセルにかくかくと頷き、わたしはそっと、向かいの店のショーウィンドウに視線を移す。
――――やっぱり、わたしの隣にいるのはクロセルなのだ。
指の絡められたわたしの右手が軽く震えている。き、緊張しすぎて無意識に体の力が……。
「本当に、どうしたの? 俺にも言えないような隠し事?」
「ななな、別にそんなんじゃないしっ!」
「怪しいなー。リリーは分かりやすいから」
つん、とおでこを突かれる。からかうようなその仕草に、わたしは頬を膨らませた。
「別にそんなんじゃないんだってば!」
「ふーん。ほんとかな? 浮気とかしてない?」
「するわけないじゃん!」
「こないだベリアルと歩いてるの見たけど」
「そっ、それはぁ」
ベリアルは帰り道が暗いから送ってくれただけだって。その日はたまたまキアも店番で迎えに来なくって。
「男はみんなオオカミなんだからね」
「え〜」
てことは、クロセルもオオカミのうちに入るのだろうか。…クロセルがオオカミ…。
脳裏を、もふもふ耳とふさふさしっぽをつけたクロセルの姿がよぎった。…ありだな。案外可愛い。
「リリー? おーい。聞いてる?」
「ハッ。え、な、何?」
脳内でクロセルをもふもふしまくっていたわたしは、慌てて答えた。クロセルはため息をついてぼやく。
「はぁ……。やっぱり浮気してるのか」
「ちちちちっ、違うもんっ! わたしが好きなのはクロセルだけ…!」
言いかけて、わたしはとんでもないことを口走ったことに気づく。
「へえ…俺だけ」
「なっ、い、今のはっ、そのっ…」
「ほんとに俺だけが好き?」
「うう…」
顔が熱い。きっと、顔だけでなく耳も首も赤い。なっ、なんてことを口走ったんだわたしはっ。
ぐい、と腕の中に引き寄せられ、ささやかれる。ふわりと香るフローラルマリン。
「ね、答えて?」
「ふ、ふえぇ!?」
ななな、何を!? さっきの言葉をもう一回言えと!? 無理無理無理!! さっきのはちょっとした弾みっていうか本音が出たっていうか、ああっ違う本音じゃない!
「言えない?」
「ううううう………」
わたしはクロセルを涙目で睨みつけた。言えないしっ! ていうか何を言わせようとしてるのよっ!
「怖くないから。誘うなよ」
「誘う…?」
「うん、分からないならいいよ」
首をかしげていると、顔をクロセルの胸に押しつけられた。ぎゅっと抱き締める腕に力を入れられ、わたしは全身が硬直する。
「あらぁ、リリーちゃんじゃなーい。あら、クロセルもいたの? 私のリリーちゃんを離してくれない?」
不意に現れたアスタロテに、クロセルが警戒するようにわたしをさらに強く抱きしめた。
「リリーは俺の。アスタロテは弟と仲良くしてれば?」
「女同士の友情ってもんが分からないの!? んもう、相変わらず融通の利かないやつねぇ」
ぼやきつつ、アスタロテはわたしをクロセルからべりべりと引き剥がす。
「え、えっと、アスタロテ、こんにちは?」
「まだ朝よ、リリーちゃん。『おはよう』じゃないかしら?」
「そんなくだらない話をしに来たんだったら、デートの続きに戻っていいかい?」
「ったくもう、せっかちねぇ。ちょっと黙らっしゃい。すぐに終わるわよ。ほら、そこのパーラーでアイスでも買ってきなさい。もちろんリリーちゃんの分もよ!」
「俺が忘れると思う!?」
文句を言いつつ、クロセルはすぐそばでアイスを売っているワゴン車まで、なごり惜しげにアイスを買いに行った。どうやら、クロセルもアスタロテには叶わないらしい。
「さて、あのアホタレはいなくなったことだし、」
「アホタレって……」
「その様子だと、リリーちゃんとクロセルの関係は良好みたいね」
「ううう……」
「街のど真ん中でいちゃつくのはどうかと思うけど」
「ううううううう……」
「ま、アホタレからいちゃついたんでしょ。あいつには後で釘をさしとくから大丈夫よ」
「うん……ありがとう?」
「お礼を言うことじゃないわよ。私が勝手にあいつを敵視してるだけなんだから」
言って、アスタロテはあでやかに笑った。
「……リリー! 大丈夫? 何もされてない?」
「しっつれいねぇ。あんたの方がよっぽど怪しいわよ。じゃあまたね、リリー
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次