「暑い!」
「うるさい!」
「だから暑い!」
「知らん!」
「セルトには分かんないんだよ、この暑さなんて!」
「普通に考えて、長袖を着ている俺の方が暑いだろう!」
昼間の、じりじりと肌を焼く暑さとは違い、もわりとした重たい空気が身を包む。それは俗に、蒸し暑い、と呼ばれるものである。
もう太陽も沈み、本来ならばもう少し涼しくなっているはずだった。が、今日は一段と蒸し暑い。
私は(涼しそうに見える)セルトをにらみつけた。
「あのね、セルトは涼しい顔をしているから、私より絶対涼しいの。
でもね、考えてみて? 私のこの顔を見てよ。とっても暑そうでしょう? だからとっても暑いの。
もうね、食欲もないの。セルトが作ったおいしい料理も食べれないの。お腹が受け付けないんだよ? これは重症だと思わない? 病気かもしれないよ?」
「夏バテだな」
「それだけじゃないよ! 最近、眩暈もするの……。どうしよう、前よりもうご飯が喉を通らなくって……」
「栄養不足だ馬鹿」
「だからね、暑いの!」
机の上のコップに入った氷が、澄んだ綺麗な音を立てた。多分、それは風鈴の代わりにセルトが置いてくれたものかもしれない。
セルトは仕方ないように私を見て、一言呟いた。
「しょうがねぇな」
因みに後でセルトは、冷たいレモネードをつくってくれた。
私はそれをおいしく頂くことになる。
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