「先生! ご無事ですか!」
真っ先に飛び込んできたのは、イングリフ様ではなく、我が国の第三王子、アルト様だった。
おとなしくて、いつも無表情の王子が、顔色を変えて入ってきた。
助かった……。
アルト様を見て、まずそう思った。
マリアンヌ殿が、元気なうちに助けが来た。
肩の力がストンと抜けた。
けれど、アルト様は、俺たちを見て、硬直した。
安堵の表情ではない。
何か、驚愕した顔だ。
「教授!」
「マリアンヌ!」
「マリアンヌ様!」
「マリアンヌ殿!」
口ぐちに彼女を呼び、入ってくる宮廷の面々……。
ソロレスにイーヴにカリエン、庭師のシュイエ、エグザまでいる……。
彼らもアルト様と同じように、固まった。
彼らの方を向いた、涙の跡がはっきりと残る、下着姿のマリアンヌ殿。
俺の腕に巻きつく、破けたブラウス……。
……俺、襲った?
これ、襲ってる???
瞬時に状況を理解し、血の気が引いた。
けれど、当のマリアンヌ殿は、理解できていないようで、
「……よかった」
と、ほっとしたように言い、俺の肩に倒れこんだ。
極度に緊張していたのだろう。
無理もない。
こんなところに閉じ込められていたんだ。
気丈に振舞ってはいたが、本当は心細かったのかもしれない。
気丈というか、能天気とでも言うのだろうか。
明るく振舞っていたと表現すべきかもしれない。
とにかく尋常ならざるタフさを誇っていたマリアンヌ殿も、安心したのだろう。
彼女の表情は穏やかだった。
だが、ここで気を失うのか?!
マリアンヌ殿の後ろから、鬼の形相の面々が俺を見ていた。
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