マリアンヌ殿は、鎖の先の壁の破片を手にとって、首を傾げていた。
俺はそのままそこに居てくれればいいと思った。
彼女に当たらないように、もう片方の鎖の壁も壊す。
「はー」
肩で呼吸する。
体力限界だ……。
思っていた十倍くらい、大変だった。
頬に付いていたのは、血だった。
鎖とこすれて傷ができていた。
手がジンジンしている。
骨がおかしくなっているかもしれない。
それでも、さっきよりは全然動ける。
重りのように壁の破片がついた鎖を引きずり、扉に向かう。
「ヴォルク、どこに行くの?」
「マリアンヌ殿は、そこに居てくれ」
そう言って、扉の前まで来る。
次はこれを壊せばいい。
燦然と輝く、金属の扉。
鍵はかかっていないとしても、かなり厄介そうだ。
だが、これを壊せば、出て行くことができる。
マリアンヌ殿を連れて、安全な場所に行ける。
体当たりをしようとしていると、マリアンヌ殿が背中から抱きついてくる。
「ヴォルク、もうやめて。私は平気だよ。血が出てる、これ以上はダメ。壊せるはずがないの。これ以上やったら、ヴォルクでもダメなの!」
「扉が開けば、宮廷に戻れる。マリアンヌ殿は、ここにいてはいけない」
マリアンヌ殿が俺の前に出てきて、涙をいっぱいためた瞳で俺を見る。
「ダメ! ヴォルク、無理しないで」
そう言うと、マリアンヌ殿は着ていた白いブラウスの端を掴み、勢いよく破く。
「なっ! 何をしている!」
マリアンヌ殿の下着が丸見えになった……。
「手当て……」
「はぁ?」
「……時代劇で、怪我人を見た人が、着物の裾を破いて手当てをするっていうのがあって、一回やってみたいな〜って」
泣きながら、彼女は言った。
「時代劇??」
何だそれは……。
表情と言っていることがおかしい。
それは、泣きながら言うことなのか?
「思ってたより裂けた」
目から涙を流し、鼻をぐずぐず言わせながらブラウスを脱ぐと、それを細く破き、俺の手と腕に巻きつける。
「マリアンヌ殿、とりあえず、服をなんとかしてくれ」
「壊れるはずがないの。それなのに、こんな無理して……」
彼女の瞳から、綺麗な涙がポロポロとこぼれた。
「マリアンヌ殿……」
「やだよぉ。ヴォルク……。こんなに傷ついて……」
彼女は静かに泣いた。
俺は、どうしたらよいのかわからず、固まっていた。
すると、何やら扉がガタガタと音を立てて、開いた。
ここでイングリフ様なのか?
[5]
戻る [6]
次へ
[7]
TOP [9]
目次