余に隠しごとをするとは……。まぁよい。いずれ目にモノ見せてやろうぞ。

マリアンヌ殿に頼まれて、本を図書室に返しに行くと、そこには勉学に勤しんでいるアルト様がいた。
訓練場にいるのならともかく、図書室にいるアルト様に、俺は関わるべきではないと思った。

アルト様をお守りするのは、親衛隊員として当然のことだが、図書館だし、宮殿内だし、いかなる場合でも、最悪な状況を想定して行動しろ、とイングリフ様にはみっちり教え込まれているけど、そもそも俺は、マリアンヌ殿に頼まれて本を返しに来ただけだし、って、マリアンヌ殿からの頼まれごとの方が、アルト様の警護よりも優先すべき事象なのかという疑問もあるが、あのか細いマリアンヌ殿に、こんなぶ厚い本を何冊も持たせるわけにはいかないし……。

「おい」

はっとすると、いつの間にか、アルト様が背後に来ていた。

「ア……、アルト様」
あわててアルト様の方を向いた。

「またお前は、うすらボケた顔をしくさって」
「……申し訳ありません」

そう言って頭を深々と下げた。

ホントにボケてた……。
アルト様は、お小さいというのに、王族の気品を備えた表情で俺を見ていた。

ってか、どちらかというと、王族の威圧感で、俺をにらみつけていた。

「お前に聞こうと思っていたんだ」
「はい、何でしょうか!」

「Mとは、何だ?」
「は?」

「この間、お前に言われて調べてみたんだが、百科事典で探しても、それらしいことは書いてないのだ」

……こないだ、訓練場でアルト様に言ったことか?

「Mはエジプトの象形文字のフクロウが起源だと書いてあるのだが、お前はフクロウではないだろう?」
「そういう意味では……」

アルト様がキッと俺を睨みつける。

「では、どういう意味なのだ?」

もう、まぶしくて顔も上げられない後光を放つような気迫でアルト様は言った。

「そのようなもの、アルト様はお調べにならなくてもいいと思いますが」
「余が調べると、お前に都合が悪いことになるのか?」

探るような表情で、アルト様は言った。

「いえ……、そういう意味では……」

フッとアルト様は、鼻で笑った。
「余がMになってしまったら、お前は先生から愛されなくなってしまうものなぁ」

「アルト様……」
決してそういう意味ではありませんが……。

「余は必ずMの謎を解き、先生から愛されるようになる。お前はそれまでのつなぎでしかないのだ!」

勝ち誇ったようにアルト様は言って、去って行った……。



アルト様、あなたはどちらかと言えば、Sだと思います。
11/08/25 01:05更新 / 佳純
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