外に出られる保証もなく、食糧がいつ手に入るかもわからないのに……。
無駄とか言ったらマリアンヌ殿に烈火のごとく怒られるかもしれないが、できるだけ体力の消耗は避けたかった。
でも……。
隣で安心しきった顔で寝ているマリアンヌ殿を見ていると、しかたがなかったかもしれないというか……。
しかたがないというか、しかがたあるというか……。
ムリ……。
この人にあんな顔されたら……。
普段は無邪気でかわいいのに、たまに、底の見えない儚い表情をする時がある。
その顔で、俺を見て優しく微笑む。
でも、そこは精神力でなんとかしなければならなかったのではないか……。
この緊急事態に……。
だけど、この人を、悲しませたく、なかった。
淋しいなんて、思わせたくなかった……。
……もう少し、別の方法があったのかもしれないが。
「う……ん」
マリアンヌ殿が声をもらす。
起きたのかと思ったけど、寝返りをうっただけだった。
気持ち良さそうに寝ていた。
ホントにこの人は……。
マリアンヌ殿を見ているだけで、気持ちが穏やかになる。
とにかく、やってしまったものはしかたがない。
次にどうしたらいいのかを考えよう。
食糧は……。
マリアンヌ殿が持ってきた『おかゆ』なるものを横目で見る。
あれしかないから、少しずつマリアンヌ殿に食してもらおう。
水はトイレがあるからいいが、マリアンヌ殿はそれで納得できるだろうか……。
俺ひとりなら水があればひと月やふた月は平気だと思うが、マリアンヌ殿は……あんまりもたないだろう。
もったとしても三日が限度なんじゃないか。
なんだかんだ言いながら、いつもいろいろ食べてるし。
そんなことを考えていたら、いつの間にか獣になっていた。
本来なら、こうなってないといけなかったんだ。
緊急事態なんだから。
人間などという、力も鼻もきかない姿で、ここから抜け出すことはできない。
やっぱり獣人は、獣でいた方がいい。
獣の方が、圧倒的に力が強い。
そう思って、つながれていた腕の鎖を引きちぎろうとした。
こんな鎖など、獣の俺にかかればあっという間に破壊できる。
そう思って、左手につながっている鎖を右手で引っ張った。
「ふん!」
ジャ!っという音がする。
取れない。
一回くらいじゃ無理だな。
鎖を右手に巻きつけ、もう少し力を入れて引っ張る。
「はぁ!」
ジャギッ!
あれ?
前よりも音は大きくなったが、鎖の方はビクともしない。
……ここは、フルでいくか。
左手の鎖を肘まで巻きつけて、思いっきり引く。
「うぉぉぉぉおおお!!!」
ジャゴ!
「おおおおおおおおああああああああ!!!!!」
それ以上続かなくなり、肩で息をする。
……あれ???
なんだ?この鎖。
これだけ力を入れているというのに、形さえ変わらない。
「うるさい……」
寝むそうなマリアンヌ殿の声が聞こえてきた。
「すまない。起こしてしまったか?」
マリアンヌ殿を見て、慌ててそう言った。
「何してるの?」
そう言って、マリアンヌ殿は目というか顔をこすりながら起き上った。
「この鎖を引きちぎろうとしていたんだが……」
「あぁ、ムリだよ。私が獣人MAXの力でも壊れないようにしたから」
はぁ?
「だって、獣になったら逃げられちゃいましたじゃ、実験にならないじゃん」
そう言って、マリアンヌ殿は鎖のチェックをした。
「ふっ、計算通りだわ」
マリアンヌ殿は、寝起きながらも満足げに言った。
「今までの研究の成果でもあるのよ」
キラキラの笑顔で言うマリアンヌ殿を見て、この人はホントに研究が好きなんだなと思った。
でも……。
ホントに、この人は何を考えているんだ?
その頭脳、もう少し別の方向に使ってくれ。
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