「ん…もう朝かあ。今日はなんだか早くに目が覚めちゃったな。こんな風にここで起きるのも、今日が最後か……」
私が帰国することを伝えると、王子は一応納得してくれた。
ただ、今度開かれる、王子の誕生日を祝う舞踏会には、どうしても出席して欲しいと頼まれて、今日まで出発を延ばしていたのだ。
早く帰国して、クローン技術の勉強がしたかったんだけど……。
「マリアンヌ殿、おはようございます!」
「おはよう、エグザ。今日までお世話してくれて、どうもありがとう」
「身に余るお言葉…ありがとうございます!自分は、マリアンヌ殿にお仕えできたことを、生涯忘れないであります!」
ヴォルクのクローンが完成したら、また戻ってくるつもりではいるけど、それがいつになるかわからないから、みんなには戻ってくるつもりがあるということを言っていなかった。
「私もだよ」
クローンを完成させて戻ってくる頃には、この国も変わっているだろう。
その時、エグザがまた世話係になってくれるとは限らない。
それに、こんな形で去ってしまう私を、また受け入れてくれるかもわからない。
そうなったら、他の国に獣人のデータを送りつけるぞとイングリフさんを脅すつもりではいるけど、できればそんなことは、したくない。
だって、私はこの国が好きだったんだから…………。
イングリフさんに依頼された論文は、完成させるつもりでいた。
ヴォルクには嫌われちゃったけど、その論文がヴォルクのためになるんだったら、私はそれを完成させたいと思った。
「マリアンヌ殿、アルト様から贈り物が届いております」
「え?何だろう」
私はエグザから大きな箱を受け取った。
これ、贈り物としては、大きすぎやしない?
これから祖国に帰るのに、明らかに荷物になるだろうが。
んっとに、これだから世間知らずの王子ってヤツは……。
と、一瞬思ってしまったけど、せっかくアルト様がくれると言っているんだから、それはありがたく頂戴しなければと思って箱を開けた。
「………ドレスだ…うわ、アクセサリーも……。なんだか悪いな」
迷惑だと思ってしまったことが申し訳ないと思ってしまうくらい、それはハンパなく見事なドレスだった。
コレ、高いんじゃないのか……。
どうしてこういうのを給料に反映してくれないのかな?
毎日ちまちま節約して貯めて、手鏡とか論文雑誌とか万年筆とかを、なけなしの賃金で買ってたのに。
国帰って、研究費とかなくなったら、売っぱらおうかな。
それから気を取り直して支度を済ませ、私は舞踏会に向かった。
慣れない格好に少しもたついてしまい、会場に行くのも遅れて、着いた頃にはすでに宴もたけなわという感じだった。
「うわ…すごい…!!さすが王子のための舞踏会。ドレス、プレゼントしてもらってよかったな。私の手持ちのじゃ、場違いだったかも…」
一瞬、気おされてしまったけど、よく見ると、ここまでドレスを着こなしてるのって、私くらいかもしれないと思ってしまった。
このキュートビューティな私に似合いすぎてるんだもん。
やっぱ、知性があふれてしまう私は立っているだけで存在感あるっていうか。
でも、このタイトなドレス、どうして私の体にぴったりなんだろう。
アルト様、どうやって私のサイズを知ったんだ?
少し、ぞっとしなくもなかったんだけど、あまり深く考えるのはよそう。
エグザを使って服のサイズ調べたとかも考えられるし。
そんなことを思っていたら、人型のヴォルクがいた。
チャンスかも……。
獣のヴォルクだとすぐに察知されて逃げられてたけど、人型なら近づける。
ダテに観察していたわけじゃない。
人型のヴォルクにどうやって近づけば気づかれないかくらい、私なら熟知している。
でも、人型のヴォルク、やっぱりかっこいいかも。
おまけに獣の姿にもなれるなんて、ホント、完璧すぎだわ……。
獣の時の、しっぽのもふもふ感。
たまんないわ……。
人の時はかっこよくって、獣の時はあんなに愛くるしいなんて、卑怯なまでにずるいわ……。
避けられてしまうようになって気付いた。
ヴォルクのいない生活が、こんなに退屈だなんて。
武術のことならどんな質問でも答えてくれるし、護身術もできるし。
それなのに、あんなにからかい甲斐があるなんて、奇跡としか言えないわ。
でも、もう、ヴォルクには嫌われちゃったから……。
だから、ヴォルクのクローンを作って、なんでも私のいいなりになるようにすればいいと思った。
あの顔で執事タイプっていうのもいいわよね。
きちっとスーツを着こなして『お譲さま』とか言ってもらうの。
こないだヴォルクの部屋で収集した毛根つきの毛があれば、なんでもできる気がするわ。
できるだけ早く、より完璧なクローンを作るため、私は祖国に
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