森の優しい緑に包まれていると、嫌なことを忘れてしまえるような気もする……。
空気に含まれるマイナスイオンがいいんだろうか…………。
俺は、森にいくつかあるお気に入りの場所の朽木に座ってぼーっとしていた。
「はぁ………………」
森にいるというのに、ため息ばかりが出てきてしまう…………。
あれから、俺は訓練に明け暮れ、マリアンヌ殿を避け続けていた………………。
しばらくは、どこにいようとマリアンヌ殿は俺の居所を探し当て、押しかけて来る日が続いていた。
だが、人の姿の時ならムリだが、獣の姿の時ならマリアンヌ殿が現れる前に消えることは可能だ。
そして、とうとう諦めたのか、マリアンヌ殿は俺の前に現れなくなった………………。
マリアンヌ殿の気配を感じなくなって、そろそろ一週間になる…………。
それが淋しいとか、そういう気持ちがないと言えば、ウソになる。
確かに、マッドサイエンティストではあるし、研究のことになると周囲が見えなくなるところはあったが、あの明るい笑顔で、マリアンヌ殿が俺に与えてくれたものは、かけがえのないものだった。
……なくしてみて、はじめてわかったかもしれない。
俺は、あの騒がしい日常を、大切に思っていたということを。
マリアンヌ殿の居ない日々は、世界が色を失ってしまったかのようだった……。
「こんなところで、何をしているんだ?」
「気配を消して、後ろから来るの、やめてくれませんか……」
振り向く気力もなかった……。
獣の姿の時の俺にこんなことができるのは、今のところ一人しか知らない。
「人間の姿で落ち込まれると鬱陶しいが、獣の姿で落ち込んでると、どことなく滑稽だな」
そう言って、イングリフ様が俺の隣に座った。
「鬼のような形相で訓練をしているのかと思えば、こんなところで腑抜けになってるし」
「ほっといてください……。俺、話せる気分じゃありませんから」
「マリアンヌ殿と、何があった?」
俺が落ち込んでいる理由がマリアンヌ殿であると、イングリフ様は疑問ではなく、断定してそう言った。
「体外受精で、人工子宮で獣人の子供を作るから協力しろと言われました」
「それで、自分に触れられるのが嫌なほど嫌われているのではないかと悶々としているというわけか」
「あ……」
「どうした?」
「そういう考え方もあるんですね」
そっちには全然考えが行かなかった………………。
「お前はそれで落ち込んでいたのではないのか?」
「どっちでも同じです……」
というか、イングリフ様の言ってることの方がクリーンヒットというか…………。
「俺は、俺がまっとうな人間じゃないから、だから実験に使われたんじゃないかって思って、それが嫌で……」
「マリアンヌ殿がそういう人間はないことは、お前が一番よく知っているのではないか?」
確かに、マリアンヌ殿は獣になったり人間になったりするこんな俺にさえ、眩しい笑顔を向けてくれていた。
相手を見て態度を変えたりせず、いつも屈託なく笑って、周囲を明るくして、俺のコンプレックスを忘れさせてくれていた……。
獣人の子供を作りたいというのは、ただ単に、マリアンヌ殿がマッドサイエンティストだというだけだ。
研究のことになると、他のことが目に入らなくなるから……。
「イングリフ様の言う通りかもしれません。マリアンヌ殿は、ただ、俺に触れられたくなかったんですね。俺、獣人だし……。イングリフ様みたいに姿のコントロールもまともにできないし……。そうか……、それで、体外受精なんですね……」
マリアンヌ殿は、誰にでも分け隔てなく屈託なく振る舞える人だ。
ただ単に、俺のことが嫌いなんだ………………。
俺なんて、獣人だし……………。
異国で生まれて育ったマリアンヌ殿が、獣人なんて得体のしれないモノ、触れたいなんて思わないんだ………………………………………………。
「お前、もう少し明るくなれないのか?せっかく愛らしい獣の姿だというのに」
「イングリフ様に愛らしいと言われたところで、嬉しくも何ともありません……」
「マリアンヌ殿に言われたら嬉しいのか?」
「……………………マリアンヌ殿は、もう俺と口なんかきいてくれませんよ」
「そうかもしれないな」
サクッとイングリフ様にそう言われて、分かってはいたことなんだけど、なんだか回復できそうにないくらいのものが頭の上から乗ってくるような気がしてしまった…………。
「マリアンヌ殿が話したいと思っても、距離的にできなくなってしまうかもしれないよ」
マリアンヌ殿が俺と話したいと思ってくれるわけが……………って、アレ?
「それは、どういう意味ですか?」
「マリアンヌ殿は、アルト様のお誕生会が終わったら、祖国に帰られるそうだよ」
「え?」
アルト様のお誕生会っ
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