ゆっくり、ゆっくり。
君が大人になるまで、ちゃんと待ってるから。
【大人になるまで】
1ヶ月ほど前に見つけた、お気に入りのカフェに行くとなると、
学校帰りの私の足取りは弾む。
少し遠くにカフェの看板を見つけて、私はより一層、
それこそスキップでもしそうなくらいに、ウキウキする。
「こんにちは〜」
カラコロとドアを鳴らして、店内に入ると、
「あ、いらっしゃいませ!」
運よく今日もお店を手伝っていたらしい”彼”に出会うことができた。
「アイスティーください!」
「はい、分かりました。」
意気揚々といつもの窓際の席に着いた私は、早速注文する。
「きょ、今日は早いんですね。」
「うん、途中走ってきたから。」
「実ーこれ持ってって。」
「あ、うん。」
彼――実くんは、お兄さんである拓哉さんの呼びかけに、
カウンターの方へとかけていく。
私が実くんに告白されたのは、一週間ほど前の日曜日。
いつものようにこのカフェにお茶を飲みに‥‥‥というのは建前で、
本当は実くんに会いに来たときのこと。
大人になるまで待って欲しい、って。
実くんらしい言葉で、告白をされた。
私の返事は、もちろんのことながらOKで、
私の返事を聞いた時の実くんの顔と来たら、とっても嬉しそうだった。
それからというもの、私はお財布に余裕がある学校の帰り道は、
カフェへと寄っている。
「お待たせしました、アイスティーです。」
「ありがとう。」
まだ少し慣れてない手つきで、それでも慎重に、
お盆に載ったアイスティーを、私のテーブルへと乗せてくれる。
実くんはいつも目の前のことに一生懸命に取り組んでいる。
そんなところに、いつの間にか惹かれていたのかもしれないけど。
「実くん、今日は何時まで手伝うの?」
「えっと、5時までだから、あと10分くらいだよ。」
「じゃあ、待ってるから一緒に帰ろう。」
「あ‥‥‥うん!」
いつものように、一緒に帰ろうと誘えば、
花が咲いたみたいに笑顔を見せてくれる。
その笑顔を見ていると、私まで嬉しくなって、自然と笑ってしまう。
実くんは私より年下だから、家まで送ってもらうなんてことはできないけど。
私が実くんを送って行っているから、一緒に居る時間はいっぱいある。
「お待たせ!」
「じゃ、帰ろうか。」
手伝いを終えて、実くんがお店から出てくるのを待って、
私達は並んで歩き出す。
今までだったら心配した拓哉さんが実くんと帰っていたのだけれど、
今は私が実くんと一緒。
何気なく、遊んでいた右手で実くんの左手を握ったら、
「‥‥‥えへへ。」
って、嬉しそうに笑ってくれた。
その笑顔が嬉しくて、心がポカポカと温かくなる。
世間から見れば、年の差カップルといって良いくらい、
差はあるのかもしれないけど。
それでも、今は実くんと離れることなんて考えられない、一緒にいたい。
他愛もない世間話をしながら歩いていると、
すぐに実くんの家に着いてしまって、一緒の時間なんてものは、
すぐに終わってしまう。
「それじゃ、ね。」
そろそろ暗くなるから、私も家に帰らないとって思いながら、
繋いでいた手を離そうとしたら。
「‥‥‥‥‥。」
「実くん?」
その手は、ぎゅっと強く握られた。
どうしたのと、声をかけようとしたら小さな声が耳に届く。
「もう少ししたら、」
「ん?」
「もう少ししたら、絶対、ボクが送って行けるようになるから。」
見つめられた瞳が、あまりに真剣で目を逸らせない。
横から差し込む斜陽に、照らされたその顔に胸が締め付けられる。
‥‥‥本当は、送って欲しいなって思わなかったわけじゃない。
でも、心の中で私の方が年上なんだから、
お姉さんなんだからって言い聞かせてた。
それに、実くんは気付いていたのかな、もしかして。
「‥‥‥うん、分かってるよ。」
「ボクが大人になるまで‥‥‥ううん、もうちょっと強くなるまで、」
「うん、待ってる。ちゃんと待ってるから。」
「‥‥‥うん!」
握り返した手の強さが、その証。
そんな風に、私を想ってくれる君だから。
そんな風に一生懸命な君だから。
私、実くんを好きになって良かったって、ずっと感じてる。
不安になっていたならごめんね。
私、待ってるよ。
送ってもらえる日、楽しみにしてるから。
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