他人からの好意は、鬱陶しいものだと思っていた。
確かに好意を寄せられることは嬉しく思うこともあるのだが、
相手が望んでいることが分からなければ、その関係が続くことは難しくなるし、段々と煩わしくなるものだと分かっていたから。
だから、同じ場所に下宿している少女が、セルトに思いを寄せているのだと思った時、僕は二つの感情を抱いた。
それは、”安心”と”落胆”。
安心したのは、煩わしい感情が自分に向けられて居ないと思ったから。
落胆したのは、彼女が僕のものになり得ないと思ったから。
自分が彼女に寄せている想いに蓋をして、彼女の気持ちにも気付かないフリをして、
そんな感情、初めから何も無かったことにして、逃げようとしていたのに。
彼女ときたら、そんなのお構いなしに、まっすぐ僕に歩み寄ってくれた。
『セルトは確かに大事な人です。
でも、私はミルズさんが気になって気になってしょうがないんです!
ミルズさんのことが、好きなんです!』
彼女らしい、不器用ながらもまっすぐな告白だった。
僕が卑屈になっていることに、もしかしたら気付いていたのかも知れないと、今更ながらに彼女のシンプルな思考に感心してしまう。
「‥‥‥‥‥。」
彼女の目を見つめたとき、僕は正直怖いとすら思ってしまった。
まっすぐで、嘘を吐けない事があんなにも怖いと思ってしまうなんて。
「僕は、ずいぶんと君に感化されたみたいだよ。」
「‥‥‥すぅ。」
眠る横顔に、手を当てて髪を遊ぶ。
さらりとした感触と、わずかに香るシャンプーの匂いに頬が緩む。
自分なんかの為に、毎日一生懸命悩んでくれていたと知ったとき、
あんなにも心が暖かく温もりを灯したのは、きっとそれが嬉しかったからだ。
だから、彼女がしてくれたような真っ直ぐな告白をするつもりだったのに。
ひねくれた、天邪鬼な答えしか返せなかった。
思っているのに言わないのは、包んだプレゼントを渡さないのと同じだと、
誰かが言っていたのを思い出す。
「僕も好きだよ、ありきたりだけど‥‥‥ずっと傍に居てほしい。」
「‥‥‥うん、だいじょ、ぶ‥‥‥すぅ‥‥‥。」
「‥‥‥あはは、敵わないな。」
多分、寝言なのだろうけれど。
布団の中で身じろぎしながら、なんとも幸せそうに眠る彼女のまぶたに、
小さく唇を落とす。
『おやすみなさい、彼方も優しい夢が見られますように』
さっき耳元でそう言ってくれた彼女に、同じ言葉を返す。
願わくば、夢の中でも笑顔の君に会えますようにと、願いを込めて。
「おやすみ、良い夢を。」
『だからミルズさん、どこにも行かないでください!』
その一言に救われた、でもその事はまだ秘密。
いつかちゃんと、君に話すから。
‥‥‥ありがとう。
それ以上の言葉は、多分無いよね。
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