連載小説
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衝動
目指す光の中に
小さな人影があった

それは小さな女の子だった


夢から覚めると
またいつもの景色が広がる

薄汚れた天井と殺風景な部屋

今朝は雨音が聞こえていた

昨日の内に花を届けられなかった場所を
少し残していたため
今日はそこに花を届けるつもりでいたが
これだと花の手入れに
少し時間がかかりそうだ

オレは宮廷内をまわり
最後に調理場に花を届けた

「あれ、シュイエ?おはよう」

振り返るとそこにイリス様がいた

「なっイリス様!?す、すみません!オレ…失礼します!」

こんな時間に起きているとは
昨日のイリス様と同じ人とは思えないな

のんびりそんなことを考えながらも
オレは急ぎ足でそこを去った

「え、あ…行っちゃった。花を届けにきてくれたのか」

イリス様のつぶやきは
遠ざかったはずのオレにも
聞こえるほど大きかった

…良いのだろうか
イリス様はオレをもともと
庭園師として見ていたが

オレはイリス様がアルト様の個人教授ということを
知らずにいたとはいえ
上の地位にいる人と関わったことは
良い事ではない

それに対してイリス様は
何の気兼ねもしていないようだから
余計にたちが悪い

特に中尉にこの事を知られたら
また小言を言われるだろう

雨に濡れ
葉を切り取る作業をしながら
オレはこんなことを考えていた

雨は思っていたより強かった

仕事を終え地下に戻ると
服を絞って乾かしたが
雨をたっぷり吸って
まだまだずっしりと重かった

この様子だと
明日までに乾くことはないだろう


翌日も雨は降り続いていた
昨日よりも雨風ともに強くなっていた

それは木にしがみついて姿勢を低くしていないと
吹き飛びそうなほどだった

オレはあることを思い出していた

それは初めてイリス様に会ったときのことだった

彼女が落ちたらしき木には…

考えると同時に体は動いていた
オレはその時の木を目指して走っていた

…あった

そこにはまだ巣が残っていた
巣の周りを葉が囲い
幹が丁度風が吹く方向にあり
直接風が当たらないようになっていた

しかし巣が飛ばされるのも時間の問題だろう

オレは木に登り
雛たちにつつかれるのも無視して
巣を木からもぎ取った
11/04/05 21:20更新 /
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