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「はあ……」 重たいため息をつく。 プレゼントが欲しい、なんて言われて一週間が経っていた。 その間、わたしは買い物には行かなかったし、公園に寄りつこうとも思わなかった。 どうしたらいいのか、まったくわからなかった。 プレゼントだって、まだ準備できてないのに……。 ……。 はっ! いつの間にかあげる気満々になっている!? 「何よー、暗い顔してると思ったらそんな殺気みなぎらせちゃって。病気なんだったら私が診てあげるわよ、リリーちゃん」 「いいから。病気じゃないし」 「残念」 「ていうか、アスタロテの専門は整形外科でしょ!?」 「リリーちゃん単純だから、引っかかってくれないかなってちょっと思ったんだけど」 「……」 今は、アスタロテとお昼ごはんを食べているところだ。 ちょっと今日はキアに店番を任せて、羽を伸ばそうと思ってたら、アスタロテに捕まったのだ。 『暇なの? じゃあ、私と一緒に買い物に行かない?』 というわけで、市街地の服飾店を引きずりまわされたわたしは、少し遅めのお昼ごはんを今食べている。 アスタロテと買い物に行くと、いっぱい買わされるから苦手なんだよね…。 「リリーちゃんは、ちょっといじったら私好みの顔になると思うのよね〜」 「わたしはわたしのままで十分だから!」 叫ぶと、はいはいと言わんばかりに肩を竦められた。 「で、リリーちゃんが殺気をみなぎらせた理由はなんなの? 私でさえちょっと怖かったわよ?」 「うぅ、そ、それは……」 「言えないの?」 「ううう」 アスタロテに迫られ、このままだと非常に危険な気がしたわたしは、仕方なくすべて白状することにした。 「ふぅん。珍しいわね、クロセルが女の子を口説くなんて」 「は?」 珍しい? え、なんで? 初めて会った時も思いっきり口説いてたし、わたしのこともすごくからかってくるのに。 「んー、何か誤解してるみたいね。あいつ、口説かなくても女の子が寄ってくるから口説く必要なんてないのよ」 なるほど。 「じゃなくって、誰が誰を口説くって?」 「誰が誰を? 決まってるじゃないそんなの」 ? 全く分からない。 眉根を寄せたわたしに、アスタロテが小さくため息をついた。 「リリーちゃんったら、案外鈍感なのね。まあ、そのほうが傍観者としては面白いかしら」 「えぇ!? 鈍感!? ないない」 「あらぁ、分からないわよ? 他人から見ないと分からないことっていっぱいあるんだから」 ちょっとぉ、ストロベリーパフェ二つねー、とアスタロテは厨房に向かってさらりと注文。どうやらわたしも食べることになっているらしい。 いいけどね。ストロベリーパフェ好きだし。 「クロセルのプレゼント、どんなのにしたの?」 「………」 「…もしかして、まだ準備してない?」 「だって! 何がいいのか全く分からないんだもーん!」 「逆ギレしない。残念ねー、準備したんだったら、それをネタにリリーちゃんをいじりまくれたのに」 「どんな計画よ!?」 「まあ、そんなことは些細なことよ。…何がいいのか分からないって?」 「う」 そうだった。わたしってば、さっき思いっきり叫んじゃったんだった。 「私と買い物に行って探しましょ、とでも言いたいところなんだけど、これは市販のものはお呼びじゃないみたいね」 「そうね。わたしが作らなくちゃいけないわよね…」 「私、リリーちゃんの作る香水好きよ? 大丈夫、自信を持って!」 「はぁ…」 「んもぅ、元気出してって。パフェも来たし」 パフェは関係ない気がする。 でもまぁ、アイスが溶けないうちに食べたほうがいいよね。 わたしはアスタロテに倣って、苺を口に放り込む。甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がった。 「そうねぇ。クロセルのことだから、リリーちゃんがたとえ女物を作ってあげたとしても笑顔で受け取ってくれるわよ」 「でも、どうせなら喜んでほしいじゃない」 「あらぁん、喜んでほしいの?」 「べべべ別にそういうわけじゃないけど! 気持ち! そう、気持ちの問題だから!」 くすくすとアスタロテが笑う。わたしは頬が熱くなるのを感じた。 「本当にリリーちゃんはからかうと面白いのよねぇ。クロセルがかまいたくなる気持ちもわかるわぁ」 「面白いって、ほめてるの? けなしてるの?」 「もちろん誉めてるのよ」 またもふふっと笑い、アスタロテはさくさくとアイスを崩しにかかる。 どうしても誉められている気がしない。だいたい、面白いって誉め言葉なんだろうか。疑問だ…。 「がんばってね。明日あたりなんか、クロセルは一日中公園にいると思うから」 色気と茶目っ気をたっぷり含んだウインクをよこしながら、これは餞別、とアスタロテは苺をひとつ、ごろんとわたしの器の中に入れてくれた。
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