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今日は、桜井さんは休みだった。 だからと言って、バイトをさぼるわけにもいかない。 珍しく来ていた店長と働いていた。 バイトというものも、少し、慣れてきたかなって思っていた。 いままで働いたことはなかったんだけど、なんか、僕、こういうの、好きかもしれないと段々思うようになっていた。 レジで本を受け取る。 あ、この本、僕も好きかも。 「カバー、おかけしますか?」 なんとなく、愛想笑いにも力が入る。 「お願いします……」という声を聞いて、反射的にカバーをかける。 けっこう早くできるようになった。 そう思いながら、料金を受け取って、おつりと本を渡そうとしていると、 「今日は、桜井……さんは?」 という声が聞こえてきた。 え? 顔を上げると、なんか、見たことがある高校生がいた。 この子、桜井さんの友達の柳田くんだ。 「お休みですよ」 親しみを込めて、笑顔で言ってみた。 「あ……、そうですか。すみません」 そう言って、柳田くんはバタバタと走り去った。 ……あれ? 手にはおつりと本が残っていた。 後ろにいた店長の方を見た。 「今のお客様の忘れ物、届けてきていいですか?」 できるだけ穏便にことが済むように、満面の笑顔でそう言ってみた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「柳田くん、ですよね」 駅前を歩いていた柳田くんを見つけて呼びとめる。 柳田くんは、驚いた顔をした。 「はい……」 不審者に見えるのかな? 「忘れ物です」 おつりと本を柳田くんに返した。 「あ! ……すみません」 忘れたことも忘れていたように、柳田くんは言った。 「あの、どうして俺の名前……」 「桜井さんから聞いてます。同じ福祉委員だって」 「俺のこと、言ってました?その、あなたに」 少し沈んだように柳田くんは言った。 あれ? そういう感じって思われた? 「僕、桜井さんのお兄さんの友人なんです。それで桜井さんともよく話してて」 「あ、そう、なんですか……」 ちょっとホッとしたような顔。 話すこともないし、本屋に戻ろうかなと思っていると、 「あの、桜井のお兄さんって、メガネかけて、茶色い服のけっこうカッコいい人ですか?」 思い切ったように、柳田くんは言った。 「それで、ボサボサ頭なら、多分そうですよ」 「そう……ですか」 なんか嬉しそうだ。 「親しそうに一緒に歩いてた?和真と桜井さん」 ちょっと嫉妬……。 「いえ、あの、一緒に下校してるとこ、見ちゃって」 「あの兄妹、仲いいだけだから、そんなに心配しなくてもいいですよ」 「別に、心配なんて、してないし。桜井がそんなヤツじゃないって思ってたから、少し、驚いたっていうか」 言い訳がましく柳田くんは言った。 「彼氏じゃなくって、安心した?」 「いえ、そんな、別に。桜井に彼氏がいたって、別に、俺には……」 少し頬を赤くして、あたふたとしていた。 なんか、初々しく見えた……。 「桜井には、俺が来たとかって、言わないでください」 決まり悪そうに僕に言う。 「わかりました」 柳田くんは「ありがとうございました」と言って、去っていった。 桜井さんといい、柳田くんといい、なんかお似合いな感じだなって思った。 僕が桜井さんの兄貴だったら、きっと応援するだろうけど、和真はムリだろうな……。 これは影ながら応援しようと思って、本屋に戻ろうとすると、人にぶつかりそうになった。 「あ、すみません」 そう言って顔を上げると、そこにいたのは和真だった。 「あの男、なんだ?」 かなり、機嫌が悪そうだ。 「なんでここにいるの?」 「近くまで来たから、本屋に寄って行こうと思ったんだ」 どうして、そんなことを思うんだろう……。 「今日は桜井さん、お休みだよ」 「知ってる。お前に会いに来たんだ」 「バイト先で会わなくてもいいと思うけど」 「悪いか?」 「悪くないよ」 僕に会いにきてくれたんだと思うと、嬉しかった。 「それで、あの男は?」 ジロっと和馬が僕を見る。 ……まずい? 「お客さんだよ。忘れ物してたから、届けに来たんだ」 「お前は客と話し込むのか?」 「そんなに話し込んでないよ。忘れ物を渡すだけでも、何も言わずにっていうわけにもいかないだろ」 「やけに親しそうだったけど、知り合いか?」 「知り合いってわけでもないけど」 ちゃんと話したの、今がはじめてだし。 「本当か?」 「ウソ言ってどうするんだよ」 「あいつ、瑞希と同い年ぐらいか?」 「あぁ、うん。そうじゃないかな。よくわかんないけど」 桜井さんのこと、バレた? ちょっと血の気が引いた。 「僕、バイト抜けてきたんだ」 そう言って、本屋に戻ろうとした。 すると、和真が立ちはだかる。 「……バイト終わった頃、お前のマンション、行くからな」 僕が返事をする前に、和真は去って行った。 まずいな。 バレたのかも?
13/06/28 02:29 up
佳純
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