連載小説
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アヤメ
暗闇の中
伸びてくる手
僕はひたすら走っていた
光ある出口を目指して…


気がつくと
目の前には薄汚れた天井があった
その天井からは同じところを行きかう足音が聞こえてくる

オレの部屋は
宮廷の調理場の地下にある

殺風景で
オレがここに来たころとあまり変わらない

ただ
掃除はしているから
当時そこにいた蜘蛛が
再び巣を張りめぐらせることはないだろう

しばらくすると朝食が運ばれてきた
コッペパン一斤に新鮮な野菜の皮
最近はレタスの葉も添えられるようになった

食事が済むと
オレはいつものように庭園へと向かった

午後
ハゼランが咲き始めたころ

彼女はやってきた
小さな植木鉢をもって

「庭師さ〜ん!」

そう叫ぶと
植木鉢を持っていないほうの手を大きく振りまわし
駆け寄ってきた

女性にしては力持ちのようだ

「あ…えっと…」

そういえばまだ彼女の名前をオレは知らない
少々返答に困った

「あ!ごめんなさい!私イリスって言うの」

彼女はオレの様子で気づき
名前を教えてくれた

「イリス…様…?」

聞いたことあるような…

「そう!あなたは?」

「オレは…シュイエって言います」

そういえばこのイリス様は
何故最近になってよく見るようになったのだろうか

「シュイエ!私ねアヤメの苗を持ってきたの!」

「アヤメ…ですか?」

東の国にあるとかないとか聞いたことがある
てっきり神話か何かにしか存在しないものかと思っていた

「そう!この国の人には珍しいかと思って、シュイエにプレゼントしに来たの!」

「プレゼント…ですか?」

…なぜ?

「そう!前に言ったでしょ?また改めてお詫びをするって」

「そ、そんな…よろしいのに…」

忘れていた

「あ!それともこの花のこと知ってたから別にもらっても嬉しくない?」

「そのようなことはないですが…」

「ならもらってくれる?」

どこぞのセールスマンになる気だろうか?

「はい…ありがとうございます」

「じゃ、またね!」

そういうと
また走って帰っていった

ずいぶんとお転婆な人のようだ

…さて
このアヤメの苗をどこに植え変えようか?
11/03/10 20:18更新 /
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■作者メッセージ
ヒロインの「イリス」という名前はsacro様に命名していただきました^^


3月6日に感想を下さった幟 梨緒様

読んで下さりありがとうございます!
お心遣い嬉しいです^^
私なりの世界…
上手く表現できるかどうかわかりませんが
最後までかけるようにがんばっていきたいです^^

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