よく晴れた日の午後のこと。 アリアはヴォルクに武術を教えてもらうため、 訓練場へと向かった。
「こんにちは、ヴォルク」
いつもは、「こんにちは、アリア殿」などと返ってくるのだが 今日は返ってこない。 しかも、こっちではなく、あさっての方向をむいている。 「ヴォルク?どうしたの?」 聞いてみるが、返事はない。 ヴォルクにしてみれば、今日に限って髪を下ろしているアリアが まぶしくてまともに見ることができないのだが。
「今日は一段と美しいですね」「その髪型、可愛いですよ」
こんなことをいったら、アリアはどう思うだろうか…。 もっといい言葉はないものか……。 そんなことばかりが頭を埋め尽くしている。 ヴォルクが悩んでいる姿はまさに「考える人」ならぬ「考える獣」 のようだ。アリアにとっては面白くてたまらないのだが。
そして、やっと言葉を決めたとき… 「大丈夫?」という声がした。 すぐ目の前にアリアの顔があったのだ。 まだ春だと言うのに、顔が火照り、身体全体が熱くなってくる。 その火照りを冷ますかのように、ヴォルクは 武術の指導を始めた…。
「…ォルク!…ヴォルク?!」 どうやら、また無意識のうちにぼうっとしていたようだ。 今日は身体の調子がおかしいようだ…。 早めに休んでつかれをとろう…。 そう思ったとき。
急にアリアが腕の中に飛び込んできた。 「?!」 思いもよらぬアリアの行動に目を白黒させるヴォルク。 驚きつつ、背中に手をまわすヴォルク。 そんな彼に、彼女は微笑みながらいった。 「やっぱり、ヴォルクはおひさまのにおいがするね!あったかい♪ 今日は晴れてるから、ふかふかだと思ったんだぁ〜 また晴れの日にさわってもいい?」
「あ、ああ…。」 緊張してうまく話せない。 何より、アリアを抱き締めたときのあの感触が 手に残っている。本当にどうにかなってしまいそうだ。
…訓練を終え、帰っていくアリアを見送る。 なんなんだよ、いきなり。などと思いつつ、 もうちょっと一緒にいたかったな……。なんて こともちょっぴり思ったヴォルクでした。
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