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フロレアルの午後





フロレアルの午後







「あなた、リオ様の何なの?」

街へ一人で出掛けた矢先、数人の女たちに囲まれた。
リオ様…ああ、フーリオ様のことか。彼女はややあって理解する。

「ええと…生徒のお兄さん?」

彼女は首を傾げながら答える。確かに彼は彼女の教え子の兄であるから、間違ってはいない。
けれど周りの女たちを納得させるには些か不十分な答えだった。

「何よそれ。私たちを馬鹿にしているの?」
「そういうわけでは…」
「図々しいのよ、あなた。そんな曖昧な答えで私たちが納得するとでも?」
「リオ様はみんなのものよ。抜け駆けは赦されないの」
「抜け駆け?」
「あなたの行動は目に余るのよ」
「そうよ。リオ様と常にご一緒なんて…どれだけ身の程知らずなの?」

口々に囃子立てる女たち。その中央で苦笑しつつ、時折「はあ」などと相槌を打つ彼女。
あんなナンパ占い師のどこがいいんだろうか。
というか何故私が囲まれなきゃいけないんだろう…。
彼女は真剣に悩んでいた。
あれはフーリオ様、もといリオ様が勝手に私に声を掛けて来ているのであって、別に私が望んで一緒にいるわけじゃない。
――絶対にこの人たちには言えないけど。

「ちょっと…聞いてるの?」
「え、あ、はい」

エグザ――彼女付きのメイドに黙って宮廷を抜け出し、買物に出ていた彼女は、今それどころじゃなかった。
早く用事を済ませてさっさと帰らないとエグザに怒られてしまう、とそれだけを心配していた。
けれどこの様子ではまだ当分帰らせてくれそうにない。さてどうしたものか。彼女は思案する。
その時一人の男が通り掛かった。

「教授?!」
「カリエンさん!」
「どうしたんです?こんなところで」
「ええと…」
「まあ大体のことは見当が付きますが…」

ちらりと周りの女たちを一瞥しながら彼女に歩み寄る。
「大方あの方のことでしょう」そう囁き、彼は脱力したように溜息を漏らすと彼女に背を向け、女たちを見渡した。


*


「カリエンさんが通り掛ってくれて助かりました」
「しかし教授も災難でしたね」
「ええ、本当に…」
「もうだいぶ暗くなってきましたし、部屋までお送りしますよ」
「そんな…カリエンさんはお仕事があるんじゃ…」

カリエンの申し出にあたふたと慌てる彼女。
しかしカリエンは、彼にしては珍しく柔らかく一笑する。

「大丈夫ですよ。それに私も一緒の方がエグザに言い訳もしやすいでしょう」
「う…」

彼の言葉に思わず言葉を詰まらせる彼女。

「…すいません。お願いします…」

仄かな月明かりに庭園を歩く二人の姿が映し出される。
その姿を遠くから寂しげに見つめる一人の男がいたことを彼女は知らない。

「…………」

彼女が無事に部屋へ送り届けられたことを知ると、男は静かにその場を立ち去ろうとした。
が、一人の男に呼び止められ、邪魔される。カリエンだ。

「フーリオ様?」
「…………」
「…そんなにご心配ならご自分でお行きになれば宜しかったのでは?」
「……オレが行ったところでどうなる?火に油を注ぐだけだろう」

わかっているからこそ出て行けなかった。
自分が彼女といたいばかりに彼女に迷惑を掛けるなんて思いもしなかった。

カリエンはそんな彼の思いに気付き、苦笑する。
的確に事柄を捉え、変に機知に富んでいるくせに、なんと不器用なのだろうか。
大人びているようでもまだまだ子供だと、彼はそんな主の様子を微笑ましく思うのだった。






-END-

10/10/18 16:09更新 / あおい

■作者メッセージ
これも出来たら後ほど加筆修正を加えたいと思いm(ry

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