優しい笑顔
「さつきちゃん、一緒に帰ろ?」

転入してきたばかりのころから仲良くしてくれている香川さん。
私のいちばん最初の友達だ。


すると、柳田が2人の方へ急いで走ってきた。

「香川、村上!俺も一緒に帰るよ」

柳田君は、いつでも優しい笑顔の持ち主だ。
明るくて、男子の友達も女子の友達も多い。



私はこの2人が大好きだ。
だけど、まだ2人に言っていないことがあった。

……私には、霊感がある。

小さい頃からそのことにはなんとなく気付いていた。

他の人には聞こえないものが私には聞こえたり、見えたり。

でもそんなのは私にとっては日常茶飯事だった。
だから特に気にしていなかったけれど、それのせいで
前の学校では、クラスで私だけ浮いてる存在だった。

……だから、この2人にだけは絶対に知られたくない。

この学校では、普通の高校生として過ごすんだ。
そう心に決めていた。


        *        *        *       


「村上」
「あ、清水君。何?」

清水君は、香川さんと柳田君の2人といつも一緒にいる。
あの2人と同じように、私にもよく話しかけてくれる。
ちょっと暗い雰囲気があるのに、なぜかあの人気者での明るい性格の2人とは
仲がいいみたい。

「今日の昼飯、3人で一緒に食わないかって、柳田が」
「3人って、柳田君と清水君とってこと?」
「ああ」
「香川さんは?」
「あいつは今日は他の女子に昼飯誘われたらしい」
「そっか。うん、もちろんいいよ!」




昼食は屋上で食べることになった。

「村上、やっぱり香川がいた方がよかったかな」

あまり喋ろうとしないさつきを見て、柳田が言った。

「え、だって他の人に先に誘われちゃったんでしょ?
 仕方ないよ」
「そうじゃなくて、村上、男子だけだと喋りにくいんじゃないかと思って」

柳田はいつもの優しい目で、さつきを気遣うように言った。

「あ、ありがと……。でも大丈夫……」

思ってもみなかったことを突然言われ、さつきは面食らった。


「そういえばさ、村上っていつも香川とどういうこと話してるんだ?
 香川って、ああ見えてちょっと間が抜けてるとこあるからさ。
 あ、悪い意味じゃなくて」

「悪い意味以外何があるんだよ」

清水が軽く笑ってそう言った。

「ええと……
 部活のこととか、かな」
「ああ、そういえば香川と村上って家庭科部だったよな。
 いいよな、お菓子とか作ったりもするんだろ?
 俺甘い物好きだから」

柳田の口からちょっと意外な言葉がとびだした。

「そうなんだ……
 あ、今度部活でクッキー作るんだけど、よかったら柳田君にもあげるよ」
「やった!じゃあ、よろしく!」
「あ、清水君は甘い物って大丈夫?」
「俺は甘い物はちょっとな。遠慮しとくよ」







次の日。
予定通り、家庭科部ではクッキーを作っていた。

「さつきちゃん、それおいしそ〜!!
 なんだかいつもより気合入ってるね!」
香川がさつきの持っていた皿の中のクッキーを覗き込んだ。

「うん。柳田君にもおすそわけする約束したから」
「そうなんだ!でも、他にも柳田君にクッキーあげそうなコ、
 いっぱいいるよ?
 負けないように頑張ってね!」
「そ、そんなんじゃないってば!」

急に顔が熱くなった。



柳田君は、大切な友達だ。

だけど、もしかしたらそれだけじゃないかもしれない。
他の人にあげるとき以上にわくわくしてる自分がいる……。
12/06/17 21:28 up
ラタカ