勝敗を決めるのは

裁判所――





「――それでは、証人。前へ」




『――は、はい』






天気は快晴。気持ちは曇り。






なぜかと問われれば






それはきっと、いや確実に







裁判所にいるからだ

















『はぁ〜疲れた……』


「疲れただと?ただ証言しただけじゃないか」




この人…ベルフェゴールは人の気も知らずそういってのける






『精神的に疲れたの…裁判で証言するなんて産まれて初めて経験だし、まさかあんなに厳格ムードだと思わなかった』



「そうか?私はよく分からん。だが――全ては強盗&殺人未遂を目撃してしまったせいだからな」







そう。何の因果か。




私は何時ものように配達に出掛けている最中だった。




悲鳴が聞こえて、路地裏を覗けば男の人(悪魔)が女性の持っていた宝石を奪っていた。女性は必死に抵抗したが男性の方はナイフを取りだし、その女性を刺したのだ。あまつさえ逃亡するといった事態



生憎それを目撃したのが私だけということで、裁判所に来て証言してる訳なのだが





「今度こそ、あの憎きべリアルを叩き潰してやる」




『そうなんだよね、相手はあのべリアルなんだよね』




思わずため息が出てしまう





「なんだそのため息は。まさかこの私が負けると思っているのか」



『だって相手は、どんな極悪人でも無罪にすることをうたってるんだよ?』



「私は負けん。なんせ今回はお前がいるからな。なおさら負けられない」




『ベルフェゴール・・・』





女の人だって分かってるけど、たまにドキッとさせられてしまう




『うん。私も頑張る!』





そういうとベルフェゴールは優しく微笑んだ
























――*******――







「どうなんだ?俺の勝ち目はあるのか?」



窓もない個室で、男の声が響く




「――ええ。まぁ少々時間は掛かってますが。明日には無罪をお届けできますよ」




少し間を空けて答えたのは、ベルフェゴールの宿敵――――べリアルだ



「そうか――。いや、アンタの腕は信用してるが、そう苦戦してるところを見るとやっぱりあの目撃した女が目障りだよな・・・あの女さえいなきゃ・・・そうだ、あの男にたの……――」


男が言葉も言い終わらないうちに、バンっと、べリアルは分厚い書類の束を閉じた





「――――彼女に手を出したら、殺しますよ」



冷たい瞳で男を睨む



「いっ…!じょ、冗談だって…!あんたに逆らうなんてしたら、命がいくつあっても足りねぇよ!!」


冷たい空気が肌を指す。男の体に寒気が過る



「・・・・・・」




「ほ、本当だ!信じてくれ!!」




べリアルはすっと目を細めると、目を閉じた




「――ええ。信じますとも。なにせ信用が第一の仕事ですから」



「……あ、ああ。アンタがいなきゃ俺は有罪になるからな」




「では、これで失礼しますよ」






べリアルは席を立つと、静かに部屋を出ていった。男に視線を向けることもなく。





















「おや、べリアル殿」



部屋を出ると、少し嗄れた声に呼び止められた



「――これは大臣。こんな所に出向いて大丈夫ですか」



べリアルの依頼人、そして先程の男の雇い主だ。



「あぁ。仕事のついでだよ」


「彼に何か用ですか?」


「ああ。私の部下だからな。様子を見に来たのだよ」


「様子を見に来た…ね。貴方の名誉が傷がつかないように、彼に余計なことは言わないよう口止めしにきたのでは?」



「ふっ。妙な勘繰りはよしてくれ。それじゃ明日は頼んだよ」











――*************――





「じゃあまた明日。気をつけて帰るんだぞ」




『うん。ベルフェゴールも頑張ってね』





いよいよ明日で判決が決まる。絶対ベルフェゴールには勝ってもらわないと






「お嬢さん」



『ベ、ベリアル』



「そんな嫌そうな顔されては私だって傷つきますよ」



『な、何か用?言っとくけどベリアルの味方にはならないわよ』



「それは困りますね。貴女にはこの件には降りてほしいのですが」



『はっ…?』



な、何を突然言い出すんだ?




『何馬鹿なことを言い出すのよ。降りるわけないでしょ』


「負けると分かっていても?」






『ま、負けないわよ!だって私がこの目ではっきりみたんだから!それにベルフェゴールだって勝つって言ってたもの!』




「そうだとしても貴女方は負けてしまうのですよ」




ベリアル・・・まさかここまで極悪人を無罪にしようとするなんて





『分かってはいたけど、それがべリアルの仕事なんだもんね』



「ご理解頂けましたか?それではこの件は降りるということで…」






『理解はしたけど、私が降りるわけないでしょ。例え100%負けるって分かってても人間誰しも、最後まで諦めない限り逆転のチャンスはあるんだから!』


一瞬、驚いた様に目を見開くと、べリアルはニッコリ微笑んだ



「貴女は面白いことを言い出しますね」



グイッ、と眼鏡を押し上げる








「ですが――――」




ふいに、べリアルの顔が近づくと思えば、そのまま壁がわに押し寄せられた




『えっちょっ……何?!』



「ご自分の身が危険にさらされたとしても、同じことが言えますか」




『は…い?』




さっきの笑顔とは裏腹に、真剣な瞳で見つめる



「――――人間誰しもと仰いましたが、今回相手にしてるのは悪魔なんですよお嬢さん。彼等は容赦なく汚い手を使うのですよ。」



べリアルの言いたいことはことは解る。私が想像出来ないほど沢山の事件を弁護してきて、様々悪魔たちを見てきたのだから――――



『でも。私には悪魔と人は大して変わらない気がするよ』




今もなお、私を見つめる瞳と視線を合わせる



『悪魔だからじゃなくて、人間だって残虐なことをして人から悪魔と呼ばれることもある。悪魔だって、人間が好きで、優しい人もいる――』







ふぅー、と息を吐く



『だから私は悪魔だとか、自分の身がどうこうの前に――』








『助けてって言われたら全力で助ける。それが悪魔でも人でも。これが私の出来ること』




「――――そうですか」




力が弱まるかと思えば、べリアルは私からそっと離れていった








「貴女には勝てませんよ」



そう残すと、べリアルは静かに去っていった






「行きましょう…咲舞」



『うん……ねぇキア』



「……なんでしょうか?」



『なんか怒ってない?』



「……いえ……」



『あっやっぱ怒ってるんだ』




「…………」




『そりゃ事件に巻き込まれたのは、一人で出歩いていたからだけど、あれは不可抗力だし、もしかしたら自分が狙われていたかもしれないけど、無事だったんだし』



「―――咲舞――!!」



「え――――………」



キアに抱き締められたと思ったら、その直後、大きな音が響き渡った……――

























******************







「べリアル!!」



「おやおや、物凄い剣幕ですねベルフェゴール殿。法廷前だと言うのにいいのですか?」



「黙れ!貴様がそこまで腐ったやつだと思わなかった!まさかあいつにまで手をだすなんて!」





「?一体何の話をされているのですか?」



「しらばっくれるつもりか!アイツが!咲舞が!事故にあったんだぞ!貴様が手を回したんだろうが!」




「……お嬢さんが……事故に……?」



「私は絶対に貴様を許さないからな!べリアル!」















「許さないのは…こっちのセリフですよ」












**************







「一体どういうことだ!べリアル殿!必ず勝つのではなかったのか!」







「ええ。その予定でしたが…貴殿方が余計なことをしてくれたお陰で負けてしまったのですよ。」




「よ、余計なことだと…?何の話だ・・?」




「私が知らないとでも?彼女を、目撃者を車ではねようとしたではありませんか」



「ぐっ……!」




「私は言いましたよね?彼女には手を出さないで下さいと。私に黙認した貴殿方は死に値しますが、死刑を避けてあげたことに感謝してほしいですね。」





「こんなことしてただで終ると思うなよ!」






「どうとでも仰ればいい。私はこれで失礼しますよ」









「大臣大変です!!」




「後にしてくれ!私は忙しいのだぞ!!」



「ですが!これが、報道人に出回って今ニュースで大変なことに……」





「何だと!?見せてみろ!」







「―――さて終わったのはどちらでしょうかね」







「べリアルーーー!貴様ァァァーー!」






****************





『ベルフェゴールおめでとう!勝ったんだね!』


「無論だ。あんな奴に私が負けるはずない」


『キアもありがとう!私の代わりに証言してもらって。』



「いえ……」




「こんど何か美味しいものをご馳走してやる。ではな」




『約束だよー。じゃあね』



「……咲舞……帰りましょう」



『あっ、その前にお手洗いに行ってくるね』



「……………」



『大丈夫だよ。もう何も起こらないって心配しすぎ』




私はキアに安心させるように微笑むと急いでトイレに向かった――その時


誰かに強く腕を引っ張られ口を塞がれた





『ふぐッ?!はぶほび?!』



「しっ。静かにしてください。」




手を離され声の方を振り向けばそこにはべリアルがいた




『べ、べリアル』


「おや、事故にあったというのに、怪我はされていないようですね」


『あれはキアが庇ってくれたお陰で私は何ともなかったけど、キアが少し怪我をしちゃって……ってなんでこんなことするのよ』



「貴女が心配で気になったものですから」





『だったらは普通に会えばいいでしょ!』





「ちょっと貴女の犬が邪魔だったものですから」




『はぁ?』



「そりより私の忠告を無視しましたね。ご自分の命が危なくなると言ったのに」



『た、確かに言われたけど、無視したわけじゃ、気をつけてたし、べリアルに迷惑をかけたわけじゃないし』



「お仕置きが必要ですね」



『ちょっ!人の話聞いて――――っ!』






「―――私に狂おしくなるほど心配かけた責任取ってもらいますよ」







14/02/23 23:59 nayo2


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