連載小説
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巣箱
離宮に戻ると
オレは紙袋をイリス様に渡した

「これ、シュイエにあげる」

「…え?」

「絶対似合うと思うよ!喜んでくれると嬉しいな」

「あ、いや、それはもちろん嬉しいですが
 …ではなくて、いったいなぜ?」

「いいじゃない。そんな気分だったの。
 とにかくもらって!ね!じゃまたね!」

一方的に話をきると半ば押し付けられたような形になった

いや…嬉しいんだけど…うん

地下に戻って紙袋の中を丁寧にあけて
その服を中から取り出した

出てきたのは
ブリティッシュサスペンダーに
メロンワイン色のシャツ
カーキ色のチノトラウザーだった

男物の服…

もしかしてイリス様は最初からオレのために?
なぜオレのためにここまでしてくれるのだろうか…

雛鳥の顎を指でくすぐりながらふと思いにふけった

そういえば
もうこいつらともお別れだな

木からもぎ取ったせいで不格好な様になっている巣を眺めながら
親はどうしたかな?
とぼんやり考える

気づけばオレの足はすでに廃棄場に着いていた
手頃な木材と工具類を見つけ出すと
手は勝手に形あるものを作り始めていく

出来上がったそれは
素人が作ったものだとすぐにわかってしまうほど
とても不細工なものだった

仕事の合間にそれをユリノキに据え付ける
親鳥にも見つけられやすいし餌にも困らないだろう
そう軽く考え雛鳥をその中に入れる

雛鳥は環境が変わっても
何も変わらずいつも通りピィピィとうるさく鳴いていた

そしてオレも何も変わらず
日常へともどる

…はずだったのだが
静かな地下室に物悲しさを覚えているオレがそこに居た

最近のオレは何かが変だ

だんだんと変わりつつある自分が
なんだか少し怖かった

自分が自分でなくなることが怖かった

…怖かった?

いや
そもそも自分というものはないはずだ

これ以上オレは乱されてはいけない

…乱される?オレは何を乱している?

オレは無意味にいろいろなことを自問し始めた

結果的な答えは決まっている
イリス様と関わってはいけないということだ

そんなことは初めからわかっていたことだ

それでも安易にその答えを出したくないオレが
ここにいた
11/07/25 20:39更新 /
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■作者メッセージ
長い間期間をあけてすみませんでした
楽しみにして下さっていた方
本当にありがとうございます
そうでない方もこれを見ていただけて嬉しいです
本当にありがとうございます
もしかしたらまた
期間が空いてしまうかもしれませんが
それでも気がむいたときにでも読んでいただけると嬉しいです
拙い文章でお世辞でも面白いとは言えない小説ですが
これからも頑張りますので
どうぞよろしくお願いします

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