連載小説
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風邪もすっかり治って
イリス様の部屋にいる理由も無くなり
オレはいつものように
植物の手入れを始めていた

雨はすっかり止み
努力の甲斐あって
被害は最小限ですんだ

後で聞いた話だが
あの大雨はこの国では稀な台風だったらしい

ある日
庭仕事をしていると

「シュイエ、こんにちは!」

イリス様が話しかけてきた

「イリス様!?こ、こんにちは!」

いったい何のようだろうか…

「あの、今日時間あるかな?
 町に買い物に行こうと思ったんだけど
 一緒に行かない?」

町?なぜオレなんだ?
しかし堂々と外を見られるめったに無い機会だ
行ってみるのも悪くない…かもしれない

…今なんとなく自分に理由をつけたような気がする

「オレがですか!?
 あ、はい、お供いたします…!」

あ…でも…

「…服がこれしかなくて…」

「服? その服で十分だよ
 私も普段着だし」

イリス様のその言い方は
なんとなくオレの心を暖かくさせてくれたような気がした

街中に入るととても多くの人でにぎわっていた

いつも監視付きで
中尉の指示どうりに
花を買うために利用する店は
町外れに合ったため
オレにはそこが異様な空間に思えた

それは頭の隅に時々ちらつく過去とともに
オレの心を重くさせるものだった

「すごい人ですね。お気をつけて」

イリス様にそう声をかけておく

「うん、大丈夫」

そう言って微笑むイリス様を見て
やっぱり
オレは体が暖かくなることを感じていた

イリス様はいろいろな方向を見て
どこへ最初に行こうか考えていた

すると
いきなり目を輝かせると

「教会に寄っていきましょう」

と言った

「はい…オレは外で待ってますから
 行っていらしてください」

「そう? じゃあちょっと行ってくるね」

そう言うとイリス様は駆けて行った

相変わらずお転婆だと思った

完全にイリス様が見えなくなると
近くの噴水に腰をかけた

歩く人々の話し声
威勢の良い掛け声
その全てがオレを不安にさせた

オレは水が流れ落ちていく音だけを
懸命に聞いていた

イリス様が戻ってくるまでの時間は
オレにとってとても長い時間に思えた

それからというもの
イリス様は服屋にばかり寄っていた
時々オレに合わせては遊んでいたりもした

イリス様はいろいろな店を知っていた

「もう、ご用は終わりですか…?」

帰りたそうにし始めたイリス様の買ったものは
オレが今もっている紙袋1つだけだった

「うん、ありがとう!」

「では、帰りましょう」

「シュイエは行きたいお店とかない?」

不意に顔を覗き込まれてそう聞かれた

「い、いえ!ないです…」

むしろ長居はしたくないところだと思った


だけど
イリス様と一緒なら
また来ても…良いかもしれない
11/07/19 21:46更新 /
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