読切小説
[TOP]
Taboo
カードをめくろうとしていたフーリオの指が、背後から白い手袋をはめた手に抑えられた。

「いけません、フーリオ様」
「……止めるな」
「それは出来ません」
「カリエン!」
「ご自分を占っていらっしゃるのでしょう? それは占いをする者にとってのタブーです」
「そんなことはわかっている。しかし……」

それきり口をつぐんだフーリオを斜め上から見下ろし、手袋をはずしたカリエンがその髪をなでた。

「何が不安なのです?」
「…………」
「将来ですか? 第二王子という立場……それとも先を見通してしまえる貴方のその能力のことですが?」

フーリオの肩がわずかに揺れた。
その気になれば他人の人生をその終わりまで見通してしまえるほどの才能は、フーリオにとって重い枷のようなものだ。
何年も側に仕えてきたカリエンだからこそ、その苦悩がわかるような気がした。

「ならば私を占ってはいかがです?」

それならば占い師自身を占うというタブーを犯さず、側にいるカリエンの未来を通じてフーリオの人生を垣間見ることができる。
ただそれは不老不死という運命を背負ったカリエンにとって現実を突きつけられることに他ならない。

(それでも、この方の苦しみを少しでも取り除くことができるのならば……)

カードをシャッフルしていたフーリオの動きが止まった。
しばらく無言のままでいたが、不意に手にしていたカードを放り投げた。
絨毯の上に紙吹雪のようにカードが散らばる。
それを拾おうと膝をついたカリエンの肩をつかみ、ぽつりとつぶやいた。

「お前はずっと俺の側にいるか?」
「貴方の心からの願いを、私が叶えなかったことがありましたか?」
「いや……」
「ならば私を信じて下さい。これからも貴方にお仕えさせていただきます。貴方が必要として下さる限りいつまでも」

これが愛と言える感情なのかはわからない。
お互いの運命を理解している者同士、その孤独に寄り添っているだけなのかもしれない。
それでもフーリオは側にいてほしいと願い、カリエンはその願いを叶えようと思った。

「カリエ……」

自分の名を呼びかけた声をキスで止めたカリエンは、そのままソファーに座るフーリオの膝を体で割るようにして抱きしめた。

「んっ……」

漏れる吐息を抑えるように何度も唇を合わせなおし、舌をからめ自分の口腔内に引き入れ、逃がさないように軽くフーリオの舌を噛んだ。

「は……ぁ」

荒く息をついているフーリオの髪を愛撫し鎖骨に軽く歯を立てたカリエンは、一瞬そのすべてを自分のものにしたい誘惑に駆られた。
このまま牙で貫けば……
しかしそれをすればフーリオにはさらに過酷な運命を背負わすことになる。
目を閉じ心から余計な誘惑が出ていくのを待った。

「カリエン?」
「なんでもありません、フーリオ様」

言いながらフーリオの前をくつろげ、すでに反応しているそれをためらいなく口に含んだ。

「あぁっ」

先端を舌でなぞると透明な液体がにじむ。
それを強く吸いあげるとフーリオの体がびくんっと大きく傾いだ。
部屋の中にはフーリオの吐息とかすかな水音だけが響く。

「ぃ……あっ……」

わずかに声を上げたフーリオの体から力が抜けた。
あふれた液体を口で受け止め、そのまま一滴もこぼさないように飲み下す。
血とは違うが、精液も人の体液だ。
カリエンは自分の中の飢えが満たされたのを感じた。
ただ、飢えているのが血にではなく、愛にだと気がつくことはなかった。

占い師が自身を占ってはならないというタブーは犯さなかった。
……しかしその代わりに犯した禁忌。
決して交わることのない運命なのはわかっている。

線のようにうっすらとした新月だけが見守る中、ソファーで互いを抱きしめ合う二人は何を思うのだろうか……








11/10/31 18:30更新 / ランディ

TOP | RSS

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.30c