君の顔 |
清水君が眼鏡をはずすのは珍しいと思う。
いつだったか外したときに、あんまり珍しかったものだからまじまじと見つめてしまったら、ちょっと叱られた。 でも、見たいと思うんだから仕方ない。 だって、好きだから。 【君の顔】 「あれ?今日、清水君も日直だったっけ?」 私が頼まれていた書類を職員室に届けて戻ってくると、清水君が黒板を綺麗にしているところだった。 声を掛けられて振り向いた清水君は、困ったような顔をして、 「そうだよ、日誌にも書いてあっただろ。」 「ご、ごめん、見てなかった。」 「おいおい‥‥‥」 私の発言に呆れ顔の清水君、うう、恥ずかしい‥‥‥ 私は足早に自分の机に向かって、日誌を開いた。 するとそこには確かに自分と清水君の名前が書かれていて、そういえば今日は清水君も図書委員を休むと言っていたのを思い出した。 こんなことなら先生と雑談してないで、早く教室に帰ってくれば良かったと、私は肩を落とした。 「ま、たまに抜けてるのもある意味良いとこだよな。」 「面目ないです‥‥‥」 最近思うのだけど、清水君は人をほめるのがうまいと思う。 図書委員の仕事をしているときだって、私がいなかったらとか、ちょっとキザっぽいことまで言ってくる。 私の気持ちを知っているのかと思ったこともあったけど、きっと気づいていないと思う。 というか、清水君に釣り合う女の子になりたくて霊感鍛えたり、勉強で分からないところは聞きに行ったり、頑張ってるんだけど。 一向に清水君が私の気持ちに気づく気配はない。 このままずっと、”良いお友達”で終わってしまうのだろうか。 「あ、」 私が日誌を書きながら自分の思考に没頭していると、前のほうから清水君の声が聞こえた。 何かと思って顔を上げれば、手が滑ったのか上に持ち上げていた黒板消しが清水君の顔にクリーンヒットするのが見えた。 「あ、」 と、その様に私も間抜けな声を上げる。 清水君の顔にあたって眼鏡とともに床に落ちた黒板消しから、埃が立ち上る。 清水君がせき込みながら、手探りで眼鏡を拾おうとした。 「‥‥‥だ、大丈夫?」 私はとっさに立ちあがって、清水君のそばまで駆け寄った。 そして近くに落ちていた眼鏡を拾い上げて手渡した。 ついでに髪の毛を白く染めていたチョークの粉も、払い落す。 「ありがとう。」 「うん、ちょっと休んだら?」 「そう、だな。」 と、近くの席に清水君は腰をおろしてポケットから取り出した布で眼鏡を拭き始めた。 私はというと、何気なく清水君の向かいに椅子を反転させて腰をおろした。 見れば、いつか見た清水君の眼鏡をかけていない顔が、私の目の前にあって。 思わず私は、見とれてしまっていた。 じっと見れば見るほど、眼鏡をしている時とは違っていると思う。 夕日に照らされているからか、清水君の顔全体が赤く見える。 眼鏡ふいている今、清水君は私がこうして見つめていることにも気が付いていないと思う。 霊感は良いくせに、こういう事には疎いんだ、きっと。 下を向いているから前髪で隠れたその顔で、いつも私に笑ってくれる。 その笑顔を見るたびに私がすごく嬉しいと思っていること、知らないでしょう。 じれったい。 「気付け‥‥‥」 「ん?」 「何でもないよ。」 (言わないけど、気付いてよ。) もう一度見つめた清水君の顔は、やっぱり夕日に照らされて赤く見えた。 (な、なんですごく見られてるんだろう?) 眼鏡を拭きながら、俺は焦った。 今、目の前に座っている彼女は、何故か俺をじっと見ている。 何か付いているだろうか聞こうと思った矢先、 「気付け‥‥‥」 「ん?」 「何でもないよ。」 彼女が何か言おうとしたのか、しかし口を噤む。 今、顔をあげたら顔が赤くなっているのがバレてしまう。 彼女を好きなことが、バレてしまう。 もう拭き終わっている眼鏡を、俺は何度も拭き直して、ちらりと彼女の顔を窺う。 けれどやっぱりこっちを見たままで何も言わない彼女に、俺は身動きが取れなくなってしまった。 少しぼやけているにせよ、好きな人の顔が近くにあるというのは、心臓に悪い。 (今、眼鏡かけたら彼女の顔を間近で見てしまう‥‥‥) そろそろ視線を俺から逸らしてくれないだろうかと、俺は心の中で思う。 「見てもいいかな‥‥‥」 「ん?」 「いや、なんでもない。」 眼鏡をしてる時と、してない時。 どんな顔を見ていても、ドキドキする、嬉しくなる。 いつも見る眼鏡越しの君の笑顔も、少しぼやけた君の顔も、全部好き。 (だからそろそろ”俺の””私の”気持ちに気付いて!!) END |
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学園編が好きで、清水君の眼鏡外した時の反応が可愛すぎて思いついた作品です。
お互い気付いてないと思っているもどかしさとかが、伝わればなと思います。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 初投稿の未熟者ですが、これからも気まぐれに現れる‥‥‥予定です。 では。 10/05/10 13:47 ミケ |